むち打ち
むち打ちは、自動車の追突事故等、外部からの衝撃が原因で起こる症状です。正式な傷病名としては、頸椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群、バレリュー症候群などと診断されます。
軽い事故ですと事故直後は症状が出ず、2〜3日経過してから、首の痛み、頭痛、肩こり、目まいといった症状が現れることもあります。治療により完全に治ることもありますが、治療を行っても症状が残ってしまう方も多くいらっしゃいます。
このような場合、後遺障害と認められるときと認められないときがあります。とりわけ、レントゲンやMRIといった検査をしても画像上は異常がないことが多く、このような場合、後遺障害があるかどうかについて証明することが困難になってしまいます。
しかし、そのような場合であっても、残存する症状があることの説明に成功すれば、14級の後遺障害を獲得することができることもあります。そのためには、治療中の段階から、適切な検査・治療を行わなければなりません。治療が終わってからでは遅いこともあるのです。
等級認定のポイント
ここでは、むちうちで後遺障害の等級認定を受けるために重要な3つのポイントについてご説明いたします。
(1)まずは、むちうちに詳しい弁護士に相談
交通事故に遭ってしまい、首や腰にしびれや痛みを感じ「もしかしてむちうちになってしまったかな?」と思われましたら、まずは、むちうちに詳しい弁護士に相談をしましょう。
最も注意しなければならないことは、交通事故に遭った日から時間が経過してしまうと、後遺障害と交通事故の因果関係の説明が困難になりますので、適正な後遺障害の等級認定を受けられない可能性が高くなってしまうことです。
そのような事態を避けるためには、交通事故直後からの適切な対処を行うことが重要になります。その理由は、残存する症状があることを説明する必要がある場合がありますが、そのためには、治療中の段階から、適切な検査・治療を行わなければなりません。また、その症状が、受傷態様や受傷箇所と合致しているか、その痛みが受傷当初から一貫していることが求められます。そうしたことが診断書やカルテに記載されていないと、後遺障害の獲得ができないことがあります。治療が終わってからでは遅いこともあるのです。
したがいまして、交通事故に遭った際には、まずは、むちうちに詳しい弁護士に相談して下さい。そして、弁護士に後遺障害等級の認定を受けるために必要な、適切な病院や通院方法を相談し、等級認定を獲得できるよう行動しましょう。
(2)専門の病院での診察を
むちうちで後遺障害の等級認定を得るためには、むちうちに詳しい専門の病院で診察を受けることが重要です。
例えば、外傷を受けた場合は、整形外科で診察を受けますが、整形外科はあくまで外傷の治療を行うことを目的としています。そのため、一般の整形外科では神経損傷まで適正な診断をすることが難しいのが実情です。ましてや、病院は後遺障害獲得を目的とはしていませんので、後遺障害獲得のために協力してくれる医師の先生ばかりとは限りません。それほど関心を払ってくれないこともあるのです。
したがいまして、後遺障害獲得に理解のある病院を選択することも視野に入れる必要があります。レントゲンやMRIなどの画像検査だけではなく、他の専門的な検査を実施することが、治療終了後も残ってしまった症状を医学的に説明することに役立つ場合がありますが、このような検査を実施することに理解のある整形外科の先生にかかられるのが良いでしょう。
むちうちは神経が傷つくことによって後遺障害となるものであるので、神経損傷に詳しい整形外科に相談しなければなりません。また、治療については、場合によっては神経に精通したペインクリニック(麻酔科)での治療を受けることも必要です。
(3)適切な頻度で通院を
むちうちに詳しい適切な病院で、適切な治療を行った場合でも、後遺障害の等級認定が受けることができない場合があります。
むちうちを後遺障害として認めてもらうためには、受傷してからの治療は、適切な頻度で病院へ通院することがポイントになります。具体的な頻度は相談者の状態によって変わりますが、どの程度の頻度が適切な通院頻度なのかを把握し、通院することが大切です。等級認定を獲得するための適切な通院日数も、等級認定を獲得するための要素の1つとなるのです。
等級の違い
むちうち(むち打ち)は後遺障害として等級認定をされた場合、14級9号あるいは12級13号に認定されますが、どのような違いによって14級9号と12級13号を区別されているのか基準を知らないという方も少なくないと思います。
しかし、14級9号と12級13号では、自賠責保険から支払われる保険金に約3倍も開きがありますので、12級と14級の違いについて十分に理解をしておくことが必要です。もしかしたら、適切な検査を受けていれば12級が認定されて何倍もの賠償金を獲得できたかもしれないのに、みすみす手放しているかもしれません。また、逆に、どんなに頑張っても12級には認定されないのに、何回も異議申立をして時間だけが過ぎていくこともあるかもしれません。
ここでは、12級と14級の違いについてご紹介させて頂きますので、適切な賠償金を適切な時期に獲得できる一助となれば幸いです。
(1)14級9号
14級9号は、局部に神経症状を残すものである場合に認定されます。平たい言葉でいえば、被害者の自覚症状が医学的に説明できれば14級9号が認定されることになります。
14級9号の認定を受けるためには、医師による神経学的所見と、被害者の自覚症状が一致していることが等級認定を得るために必要な条件の一つです。
(2)12級13号
12級13号の場合は、局部に頑固な神経症状を残すものである場合に認定されます。 こちらは、被害者の自覚症状が医学的に証明できなければなりませんので、適切な医学的証拠を集めなければなりません。具体的には、12級13号の認定を受けるためには、医師による神経学的所見に加え、レントゲン画像、MRI画像などの画像所見が最低限必要になります。
この画像所見も、単に「軽度の膨隆がある」とか「変性がある」とか「ヘルニア」では12級13号には認定されません。ヘルニアが「硬膜を圧排している」でも12級13号の認定は難しいでしょう。ヘルニアが「神経根を圧迫」していて初めて12級13号の可能性が見えてきます。
画像が確認できたら、筋委縮の有無が無いか、腱反射が正常かどうか、筋力の低下が無いかなどを精査し、被害者の自覚症状とこれらの検査所見(神経学的所見といいます)が整合しているかどうかを確認する必要があります。
頚椎はC1からC7までに区分けされ、腰椎はL1からL5までに区分けされることが多いのですが、それぞれC1とC2の間、C2とC3の間、L1とL2の間、L2とL3の間等々で、それぞれ影響を及ぼす筋肉(支配筋といいます)が異なってきますので、画像所見と検査所見の一致も確認しなければなりません。筋電図検査を受けるのも一つの選択肢です。
なおMRI画像については、多くの病院では1.5テスラのMRI画像撮影機器を置いているところが殆どだと思いますが、それではなかなか神経根を圧迫しているかどうかを確認することは難しいです。できれば、より鮮明な画像を残すことができる3.0テスラのMRI画像撮影機器を置いている病院にて画像診断を受けたいところです。
また、頚椎にヘルニアがあれば頸椎全体の画像を撮影するのではなく、できれば問題となっている椎間に限定して、当該部分について1mmスライスの輪切りのMRI画像を撮影したいです。とはいえ、医師は「治療」が仕事ですので「証明」にはなかなか協力してくれません。
当事務所では積極的に医師面談を行って、主治医の先生にこちらが希望する撮影方法でMRI画像を撮影してもらったり、こちらが希望する撮影方法で他の医師に紹介状を書いてもらったりしています。
ここまでして初めて12級13号に認定されるのです。逆に言えば、ここまで揃わなければ、残念ながらどんなに痛くても辛くても14級9号に留まるといえます。とはいえ、12級13号に認定されると、以下のように賠償金額に大きな差が生じるのです。
12級13号と14級9号の賠償金額の違い
12級 13号 | 14級 9号 | |
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医師による必要所見 | 神経学的所見・画像所見 | 神経学的所見・自覚症状と一致 |
自賠責保険の支払限度額 | 224万円 | 75万円 |
弁護士会基準での支払限度額 | 290万円 | 110万円 |
上記の表のように、慰謝料以外にも逸失利益を12級と14級の場合で計算すると、賠償金に大きな差額が発生いたします。本来受領できるはずの賠償金を獲得するためにも、適正な後遺障害を認定してもらうことが重要です。
交通事故にお遭いになられてしまい、むちうちかなと思う症状を感じられる場合には、すぐに後遺障害に詳しい弁護士までご相談しましょう。