民事手続が終了するまで ~死亡事故の民事手続論~
このページでは、交通事故に遭って人が亡くなった場合に、訴外での示談交渉がまとまらず、裁判に至ったあと、どのような手続を踏んでいくかについてご説明いたします。
まず、そもそもどんなときに裁判手続に移行するのでしょうか。
ア.裁判手続に移行するケース
裁判手続に移行するケースの殆どは、遺族の方々の「感情」と保険会社が提示する「金額」との間にかい離が見られる案件です。
かい離が見られると一口に言っても、過失割合にかい離があったり、慰謝料の金額に納得ができなかったり、あるいは個別の項目というよりも全体の金額について納得できなかったり、色々な事例が存在します。
イ.保険会社から裁判の依頼があった際は弁護士に相談を
このとき、保険会社から「保険会社としてもできるだけ多くの賠償金を支払いたいから裁判をしてほしい」と案内されることがあります。 このように言われたときは一度弁護士に相談する必要があります。なぜならば、実際には裁判にしたときに保険会社が提示した賠償金額より下がる可能性を否定することができないからです。
ウ.保険会社が裁判を依頼する意図は?
もっとも、裁判をしてもあまり時間がかからず、かつ元の提示金額より裁判所が提示する和解金額のほうが大幅に高くなることもあるため、保険会社の案内に乗ったほうがいいこともあります。保険会社も裁判をしても勝ち目がないはずなのに、なぜこのような案内をするのでしょうか。
エ.死亡事故特有の焦点
ここに、死亡事故特有の焦点があります。 それは、加害者が加入する任意保険会社は、自賠責保険会社に対し、①任意の示談交渉の場合には、3000万円という自賠責保険の枠のうち、自賠責保険の基準にしたがった金額+α程度の金額しか求償請求することができませんが、②裁判上の和解の場合には、3000万円という自賠責保険の枠に到達するまで、裁判所が提示した和解金額のうち3000万円に到達するまで自賠責保険会社に求償請求することができるため、任意の示談交渉のときよりも裁判になったほうが多く求償請求することができるのです。
このような結論になる理由についてはここでは割愛しますが、裁判を案内されたからといって「誠意が無い」と保険会社に対してクレームをぶつけるよりも先に、裁判をしたほうがいいのかどうかを冷静に判断したほうが得策といえます。
さて、では実際に裁判に至った場合にはどのような手続きを踏むのでしょうか。
ア.訴状が加害者のもとに送達
まず、訴状が加害者のもとに送達されます。
ここで注意していただきたいのが、刑事手続と違って民事手続では加害者本人は裁判の場には殆ど出てこないという点です。
たしかに訴状は加害者本人のもとに送達されますが、その後は賠償金の問題であり、賠償金を払うのは加害者本人ではなく加害者が加入する保険会社であるため、利害関係は加害者本人よりも保険会社のほうにあるといえます。そのため、事故態様に争いがあるような場合でない限りは、加害者本人は裁判の場には出てきません。事故態様に争いがある事案であっても、尋問の段階にまで至らなければ加害者本人が裁判の場に出てくることはありません。
もし加害者本人に気持ちをぶつけたい場合には、別ページにて解説させて頂いている被害者参加制度を利用すべきです。
イ.第一回期日が開かれるまで
訴状が送達されてからは、第一回期日が開かれるまで1ヶ月から2ヶ月ほどの間が開きます。
この間に、加害者(厳密には加害者の保険会社)から、こちらの訴状に対する反論の答弁書が届きます。この書面には、事故態様を除いて、加害者の意向は殆ど入っていないと考えたほうがいいです。
第一回期日が開かれてからは、1ヶ月から2ヶ月おきに期日が開かれ、期日ごとに交互に主張書面や証拠書類を提出していきます。多くの場合には過失割合以外に事実関係で争いになる部分は無く、専ら評価の問題になっていきますので、早々に裁判所から和解案が提示されることが多いです。
この和解案を承諾すれば、和解がまとまってから1ヶ月以内に賠償金が振り込まれますし、和解案を拒絶すれば証人尋問を経て判決となります(争点によっては、加害者の尋問だけでなく被害者遺族の尋問も無く、そのまま判決になることもあります)。
このように、民事事件では非常に淡々と審理が進行していきますので、多少の物足りなさを感じるかもしれません。
しかし、刑事事件は加害者にどのような処罰を下すのが適切かという問題であるのに対し、民事事件はもっぱらお金の問題ですので、淡々と審理が進行するのもやむを得ません。
もし加害者本人に気持ちをぶつけたいがために裁判を希望されるのであれば、繰り返しになりますが、被害者参加制度を活用すべきです。当事務所では交通事故の損害賠償請求をご依頼いただいた場合には無料で被害者参加制度のサポートについても対応させて頂いておりますので、遠慮なくご相談にお越しください。