2021年7月8日
物損事故の現実
物損事故については、一般の方が考えられていることと、保険実務や裁判実務の現実がかなり離れている印象があります。物損事故については、現実を直視し、保険実務や裁判実務の範囲内で、できる限りの利益を早期に獲得することが被害者の方にとって大きなメリットになるはずです。
物損事故について多く寄せられる相談の中で、被害者の方の希望と保険実務・裁判実務の現実が離れているものについて、Q&A形式でまとめてみました。
被害者の方にとって、厳しい結論になってしまうものが多いですが、現実を直視したうえで、交渉の戦略をねることが、損害をできる限り回復する近道になるはずです。
ご参考にしていただければ幸いです。
Q1 追突事故に遭いました。私の車の修理費用については、修理工場から修理費用60万円との見積もりが出ています。しかし、保険会社からは車の時価である20万円しか払わないと言われています。どういうことでしょうか?
A1 車の修理が可能な場合であっても、修理費と車両の時価額(正確には車両の時価と買替諸費用の合計額)を比べて、車両の時価の方が低額な場合、車両の時価額での賠償となり、修理費は請求できません。これを経済的全損と言います。
今回の事故では、車両の時価額である20万円が相手方保険会社から支払われることになります。修理費60万円は請求できません。
相手方の保険会社に時価額を提示された場合、その時価額を算出した根拠となる資料の提示を求めてください。多くの場合、保険会社は中古車価格ガイドブック(レッドブック)を基に時価額を算出します。しかし、インターネットの中古車検索サイトで、車両の平均価格を調べると、中古車価格ガイドブックの価格よりも高額になることがあります(中古車価格ガイドブックの方が高額なケースもあります)。そのため、保険会社から時価額を提示され場合、その時価が適正なものか調べる必要があります。
Q2 交通事故に遭い、私の車が壊れてしまいました。修理は可能なようですが、新車で購入してから半年しかたっていないので、新車に替えて欲しいです。可能でしょうか?
A2 修理が可能で、修理費が車両時価額よりも低額な場合は、修理費での賠償となります。新車に替えてもらうことはできません。
修理が不能な場合(全損の場合)は、車両時価額(正確には車両時価額と損傷車両の売却代金の差額)での賠償になります。この場合には、買替諸費用(自動車取得税、消費税等)の賠償が認められることもあります。全損の場合であっても新車に替えてもらうことはできません。
Q3 交通事故に遭い、私の車は修理が必要な状態になってしまいました。貯金をしてやっと購入したスポーツカーで、とても大切に乗っていました。愛車が壊れてしまい耐えられません。慰謝料を請求できないでしょうか。
A3 物損を理由とする慰謝料は原則として認められません。
裁判例では、財産権とは別の権利・利益が侵害されたとして慰謝料を認めているものもありますが、極めて数は少ないです。
Q4 事故車になってしまい、車の価値が下がってしまいました。新車登録から1年ほどしか経っていない国産車なのですが、下がった価値の分を保険会社に払ってほしいです。
A4 事故歴がついてしまったり、修復歴がつくことにより下がってしまう車両の価値のことを評価損といいます。正確には、事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額のことを評価損とよんでいます。
裁判例の傾向からすると、評価損は、国産車の場合は新車登録から3年以内、外車の場合は新車登録から5年以内の車両で認められやすいようです。
具体的な金額は、多くの裁判例で、修理費用の20~30パーセントの範囲で認定されています。
今回の件では、新車登録から1年ほどしか経過していない国産車ということですので、評価損が認められる可能性が高いです。
Q5 車が全損になってしまいました。現在、保険会社と車の時価額で揉めています。そのため、事故から1カ月ほど経つのですが、新しい車を購入することができていません。私は、有料の代車を借りているのですが、保険会社が、今後は代車費用を払わないと言ってきています。車の時価額が払われないと、新しい車を購入できないので、それまで代車を借りたいのですが、どうしたらよいでしょうか。
A5 代車費用は、修理や買替に必要かつ相当な期間に限って認められます。修理なら2~3週間ほど、買い替えの場合は1カ月ほどと考えられています。交渉が長引いて、修理や買替までの時間が、前述の期間を超えてしまった場合、超えてしまった期間分の代車費用は認められない可能性が高いです。超えてしまった期間分の代車費用は、被害者の方の負担になってしまいます。そのため、交渉が長引きそうな場合は、修理工場に頼んで無料の代車にしてもらうか、修理費用を一旦立て替えてしまって、代車を返してしまう方がリスクは少なくなるでしょう。
今回の件では、すでに事故から1カ月経過しているとのことですので、これ以上の代車費用は自己負担になってしまう可能性があります。