2024年9月30日
2024年9月30日
1 増える自転車事故
自転車は手軽に利用できる交通手段ですが、あくまでも「車両」ですので、道路交通法の交通ルールを遵守しなければなりません。
しかし、自転車には運転免許が不要であるため、自転車運転者の交通ルールに対する知識不足や軽視する姿勢が目立ち、これが原因で自転車事故の増加につながっているようです。
2 自転車の交通違反に対する法の罰則は重いです
自転車運転の交通ルール違反に対しては、自動車の場合と同じように、道路交通法上の刑罰の規定が適用されます。しかも、それは次のように決して軽いものではありません。
例えば、
飲酒運転の禁止 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
---|---|
信号無視 | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
無灯火 | 5万円以下の罰金 |
運転中のながらスマホ | 6月以下の懲役または10万円以下の罰金 |
運転中のながらスマホにより交通の危険を生じさせた場合 | 1年以下の懲役または30万円以下の罰金 |
コラム 日常会話での「信号無視で罰金を支払った」の正確な意味
ちなみに、罰金というのは、刑事罰としての罰金という意味です。罰金を受けると前科者となります。一方、一般の日常会話に出てくる(駐車違反や信号無視により)「罰金を支払った」というときの「罰金」の意味は「交通反則通告制度による反則金」のことを意味していることがほとんどです。交通反則通告制度による反則金を支払えば、刑事罰を科せられませんので、前科者となることもありません。
3 自転車の取り締まりは自動車とは異なっています
(1)自動車の場合
赤キップ制度
罰則対象の交通違反に対して、刑事手続きの対象とする場合「赤キップ」が交付されるので、「赤キップ」を切られたと言ったりします。
刑事処分の対象とされるわけですから、検察官に起訴されれば刑事裁判にかけられて、懲役、禁固、罰金、科料といった刑事処分を受けるとことになります。罰金、科料は刑務所に行かなくてもよいのですが、これも立派な前科となります。
青キップ制度
しかし、あまりにも多い自動車交通違反に対して、違反の軽重にかかわらず、違反の全てを刑事手続きに乗せていては、警察・検察機関や司法機関の負担があまりにも大きくなりすぎて、その機能がパンクしてしまいかねません。また、膨大な数の交通違反者すべてに刑事処分を与えていては、多数の前科者が生じてしまいます。
そこで、赤キップを切るのは、飲酒・酒気帯び運転や30キロ以上の速度超過等の悪質な交通違反の場合に制限することとし、自動車の交通違反のうち比較的軽い違反については、所定の反則金を納付することで、刑事手続を進まなくてもよくなる制度が作られました。
これが、交通反則通告制度、いわゆる青キップ制度というものです。
つまり、青キップの制度は、赤キップまでは出したくないけど、何らおとがめなしもおかしい、その間の処分として交通違反の抑止力となるような方法はないかという工夫のもと生み出された制度というわけです。
反則金は払えばおとがめなし、反則金を払わなければ刑事手続きで処理される、違反者が刑事処分を免れるためには、反則金を支払わなければなりませんので、このことが交通違反を抑止する力となるわけです。
(2)自転車の場合
赤キップ制度
法律上は自転車の交通違反に対しても、自動車と同様に刑事手続きの対象となることが予定されています。
しかも、自転車には、「青キップ」制度というものが存在しませんので、交通違反は本来であれば制度上赤キップしかないことになります。
しかし、自転車の交通違反は自動車の交通違反とは比較にならないほど多いですから、違反すべてを赤キップとするわけにもいかず、警察が実際に摘発するのは人身事故を起こした場合やその危険を具体的に生じさせたとかの悪質な事案に限られています。
自動車運転者講習制度
では、「赤キップ」を切られない場合、違反自転車の運転者の処分はどうなるのでしょうか?
この場合、政令が定める一定の15の自転車での危険行為を、過去3年以内に2回以上行った場合、自動車運転者講習を受ける義務が生じ、講習を受けなかった場合は、5万円以下の罰金(これは刑罰としての罰金です)が科せられる可能性がある制度があります。
警察官による単なる注意ではなく、最終的には刑事罰としての罰金につながりうる制度ですので、交通違反の抑止に繋がることが期待されています。
4 自転車にも青キップが導入されます
しかし、赤キップとならない事案が圧倒的に多い運用がなされていることや、自動車運転者講習制度といっても講習を受けてしまえば、それ以上の処分はなされない制度であることから、自転車運転者の交通違反の増加に歯止めがかかっていないのが現状といえます。
警察側としては、今後警告で済ませていた違反行為であっても、取り締まりを強化し積極的に赤切符を切るというように、取り締まり方針の転換を行うことを表明しているようですが、それも結局は警察当局の判断次第です。
このような中、令和6年5月17日にようやく道路交通法が改正され、自転車にも青キップ制度が適用されることになりました。
自転車交通違反に対しては、青切符の導入により、これまで赤キップを免れていた自転車運転者で単なる警告で済んでいた違反者に対して反則金が課せられることになります。
反則金が交通違反の抑止力となり、交通違反行為が減少することが望まれます。