1 損害とは
「交通事故における損害とは何か」という問いに対し、端的に答えるのは簡単ではありませんが、あえて表現するのであれば、加害者に対して賠償を請求することができる被害結果といえるかもしれません。
「損害」に当たれば相手に賠償を求めることができます。ですので、過去の裁判例においてどのような賠償請求が認められてきたのかを分析することで、何が損害に当たるのかを知ることができます。
交通事故に巻き込まれたが、自分が受けた被害について、相手に賠償を求めることができるものなのか分からないという方は、ぜひこのページを見て確認していただければと思います。
2 人身損害
損害は大きく、「人身損害」と「物的損害」の2つに分けることができ、「人身損害」とは事故により人がケガをしたり、亡くなったことに起因して生じる損害をいいます。
また、人身損害は支払う必要のない支出が生じたことによる損害(積極損害)と、得られるはずだった収入が得られなくなったことによる損害(消極損害)に分けることができます。
⑴治療費
人身損害の中で最も基本的な積極損害と考えられるのが、治療費です。治療費は、必要性と相当性が認められる場合に、損害として認められます。
必要性と相当性というと判断が難しいように感じますが、受傷部位とは無関係な部分の治療や、不当に高額であったり、効果があるか分からない治療については治療費を請求できないと考えていただければ大丈夫です。
治療費の請求で多く問題となるのが、接骨院や鍼灸など、医師以外の人から施術を受けた場合の費用を保険会社が支払ってくれない、または慰謝料から差し引かれたというケースです。事前に保険会社の了承や医師の指示を受けていない場合に、施術費用の取扱いが争いになるケースは多く、必要性と相当性が認められるかについては、最終的に裁判所の判断に委ねられることになります。
なお、治療費は、骨折やむち打ちといった外傷だけでなく、鬱やPTSDなどの精神的症状の治療についても認められますが、事故との因果関係が問題となることが多く、これを立証することは簡単ではありません。
⑵通院交通費
通院のために、交通費を支出した場合、これを相手に請求することができます。
バスやタクシーを使った際には、その実費が支払われますし、自家用車で通院した際には、ガソリン代として1km当たり15円が損害として認められます。
⑶入院雑費
入院中、タオルやパジャマなどのレンタル費や、テレビの使用料など、種々の雑費が発生します。これらの雑費をすべて計算し、領収書等をそろえた上で相手に請求するとなると、かなりの面倒を被害者に強いることになるため、裁判においては、これら雑費をまとめて1日当たり1500円という定額で処理することとされています。
⑷休業損害
ケガのために仕事ができない、治療のために仕事を休まざるを得ないという場合に生じる収入の減少を休業損害といいます。休業損害は、消極損害の代表例といえます。
休業により生じた損害がいくらかという点について、正確に把握することは難しく、どのように計算をするかで、保険会社と争いになることも多くあります。
給与所得者か事業所得者か、正社員かアルバイトかなど、職種や就業形態によって計算方法や必要な資料も異なりますので、保険会社が提示する休業損害の額に納得がいかないという場合には、弁護士に相談することをお勧めいたします。
なお、他人のための家事も労働とみなされているので、主婦の方でもケガにより家事に支障が生じている場合には、休業損害を請求することが認められています。しかし、保険会社がこのような事実を教えてくれることはなく、主婦としての休業損害が一切含まれない内容で示談をしてしまうというケースもありますので、注意していただければと思います。
⑸慰謝料
慰謝料は、被害者の精神的苦痛を損害として捉え、これを賠償するために支払われる金銭を指します。したがって、被害者が受ける精神的苦痛の内容によって、慰謝料の額は変動します。
交通事故における慰謝料の中心となるのが、被害者が受傷したことにより生じる精神的苦痛に対する傷害慰謝料です。また、治療後も後遺障害が残ったという場合、これとは別に後遺障害慰謝料の発生が認められます。さらに、被害者が亡くなった場合、被害者本人には死亡慰謝料が、被害者と近しい身分関係(親子、配偶者など)を有する人には、被害者を失ったという精神的苦痛に対する慰謝料の発生がそれぞれ認められています。
その他慰謝料発生が認められる場面や具体的な慰謝料の金額を計算する方法について確認したいという方は、慰謝料まとめページにて詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
⑹逸失利益
逸失利益は、後遺障害による逸失利益と死亡による逸失利益に分けられます。
後遺障害による逸失利益とは、被害者に後遺障害が残存し、労働能力が減少したことにより失った将来得られるはずの利益の減少をいい、死亡による逸失利益とは、被害者が死亡したことにより失った将来得られるはずの利益の減少をいいます。
いずれも高額になる傾向がある一方で、計算方法が複雑ですので、保険会社の提示額と裁判になった場合に認められる金額との間に大きな開きが生じる損害といえます。適切な賠償額を獲得するためには、資料集めを含めて弁護士に相談することをお勧めいたします。
⑺その他
⑴~⑹でそれぞれ述べた損害以外にも、被害者が子供の場合など入通院に付添人が必要とされる際に生じる付添費用や、被害者が死亡した場合の葬儀費用、弁護士に依頼した場合の弁護士費用など多くの人身損害がこれまで裁判で認められています。
しかし、同じ損害項目でも認められる場合と認められない場合があり、どのような場合に認められるのか、認められるためにはどのような資料を集めてどのような主張を行うべきなのかを検討するには、専門的知識や経験が必要となります。お困りの際は、弁護士にご相談下さい。
3 物的損害
人体以外の物に損傷が発生したことから生じる損害を、「物的損害」といいます。物的損害は事故から比較的早い段階で損害額が確定するので、人身損害に先行して示談交渉を行うことが多くありますが、請求漏れがないように、各項目について確認していただければと思います。
車両修理費・車両時価額
交通事故により車両が損傷した場合、修理費用を損害として計上するか、車両時価額を損害として計上するかは、損傷の程度によって、以下の3つのパターンに分類することができます。
①物理的全損
車の損傷が大きく、修理が客観的に不可能な場合。車両の時価額を上限として、相手方に賠償を請求することができる。
②経済的全損
修理は客観的に可能であるが、要する修理費用が車両の時価額を上回る場合。買換えた方が安価であるため、車両の時価額を上限として、相手方に賠償を請求することができる。
③分損
修理が客観的に可能であり、要する修理費用が車両の時価額を下回る場合。修理した方が安価であるため、修理費用を上限として、相手方に賠償を請求することができる。
経済的全損に当たるか分損に当たるかは、車両時価額と修理費用をいくらと算定するかによって変わってきますので、算定方法で争いになることがあります。また、全損であることには争いがなくとも、車両時価額の評価で争いになることがありますので、相手の算定に納得がいかないという場合には、資料の提供を求めたり、改めて見積りをとってみるのもよいかもしれません。
⑵買替諸費用
車両の損傷について全損と判断された場合、実際に買換えを行うに際して生じた諸費用のうち、一部の費目については、損害として計上することが認められています。具体的には、消費税、自動車取得税、登録・車庫証明の手数料、リサイクル関連費用、ナンバープレート費用など、買替えを行うことで必然的に生じる費用は、損害として認められています。
また、事故車両を廃車とする場合の法定手数料や代行手数料相当額も損害として認められています。
⑶代車費用
事故による修理や買替えの期間、実際に代車を使用し、その代車使用に必要性がある場合、相当な範囲(車種・期間)であると認められれば、代車の使用料も損害として賠償の対象になります。
代車費用の請求で多く問題となるのが、使用期間の相当性です。一般的には、修理の場合で2~3週間、買換えの場合で1ヶ月程度が相当な使用期間と考えられています。ただし、修理や買換えに時間がかかる特別な事情があれば、これを超えた期間の代車使用についても、その費用が損害として認められることになります。
⑷評価損
修理してもなお、技術上の限界から外観等に何らかの欠陥が残存する場合や、車両の重要部を修理したため事故歴・修復歴がついた場合、車両の価値がそれだけ減少すると考えられるので、価値減少分を評価損として、損害に計上することが認められています。
評価損の発生が認められる要件や、評価損の算定方法については、慰謝料まとめページに詳しく記載していますので、評価損が発生しているのではないかとお考えの方は、ご参照下さい。
⑸休車損
トラックやタクシーなどの営業用車両が事故により損傷した場合、修理又は買換えが完了するまでの期間、損傷した車両を事業に使用できなかったことで生じる損害を「休車損」といい、賠償請求を行うことが認められています。
休車損の具体的金額を算定する際、基本となる計算式は【(被害車両の日額売上-支出を免れた経費)×休業日数】とされています。ただし、営業用車両の種類や用途などによっては、日額売上を算定することが困難な場合や、これらを立証する資料に乏しい場合もあると考えられます。休車損が発生していると思うが、相手が認めないという場合や、金額で折り合いがつかないという場合、一度弁護士に相談してみることをお勧めいたします。
⑸その他
事故時の着衣や携行品についても、事故による損傷が認められれば、利用期間などに応じて購入価額から一定割合を減額した限度で損害として計上することが認められています。
また、トラックに積んでいた商品が損傷した場合の損害や、自分の家に車がぶつかったことで生じた家屋の損害、散歩中のペットが受傷又は死亡した場合の損害など、物損についても多様な損害が裁判例上認められています。
相手に請求できるか分からない被害が生じたという場合、まずは専門家である弁護士にご相談ください。