2025年1月14日
2025年1月14日
目次
人身事故と物損事故の違い
交通事故に遭われた場合には、ご自身の事故が警察にどのように扱われているのか確認をすることが必要です。警察署では、交通事故を人身事故と物損事故とに区分けするのです。
まずはこの両者についてご説明いたします。
交通事故の人身事故とは
交通事故の人身事故とは、交通事故によって、車両に乗車していた者が傷害(怪我)を負ったり、後遺障害を負ったりするに至るものを指します。交通事故後に、交通事故による怪我で入院・通院をする場合には、通常、人身事故となります。
交通事故の物損事故とは
これに対して交通事故の物損事故とは、交通事故によって車両に乗車していた者が誰も傷害を負わなかったものを指します。基本的には車両の損傷など、物的な損害しか生じていない事故を指します。
物損事故か人身事故か、誰が決める?
交通事故証明書の右下の欄に人身事故あるいは物件事故(=物損事故)と記載されることになりますが、人身事故か物損事故かは事故当事者が相談して決めることができない点に注意が必要です。
特に軽微な事故の場合、被害者が診断書を警察に提出しない限り、物損事故として扱われてしまうことが多いようです。
人身事故として扱われた場合には、捜査に必要があるので実況見分調書を作成されます。また、当事者双方の話を聞いた上で、それぞれの言い分を供述調書という書面にし、当事者に署名押印を求めることとなります。交通事故当日に行うとは限りませんが、ご自身が遭った交通事故がどちらの扱いを受けているのか分からない場合の指標としてみてください。
物損事故では慰謝料は認められない
さて、それでは物損事故となると何か問題が生じるのでしょうか?
一番大きな問題が、交通事故によって負った傷害(怪我)・後遺障害の慰謝料が認められない場合があるということです。警察が交通事故を物損事故として扱った場合、相手方保険会社は多くの事例で、「警察が物損事故と指摘するほどに軽微な事故であって、怪我や後遺障害が生じるはずはない。」と反論してきます。このような反論がなされることで、慰謝料が支払われなくなるリスクが生じるのです。
慰謝料の有無で交通事故の被害弁償金・示談金が大きく変動しますから、この点には注意が必要です。
交通事故が物損事故として処理されるデメリット
交通事故が物損事故として処理されるデメリットは他にもあります。
① 収集できる証拠が少なくなること
まず、交通事故の態様について、刑事手続における証拠がほとんど作成されません。
人身事故として扱われた場合には、上述のとおり、実況見分調書や供述調書が作成されますし、警察が各種証拠を収集します。交通事故の被害者は、加害者が不起訴となった場合には実況見分調書を、相手方が起訴された場合には刑事裁判に用いられた証拠を、それぞれ入手することができます。これは交通事故の態様や過失割合に争いがある場合に、強力な証拠となります。
他方で、物損事故として扱われた場合には、捜査機関が上述の証拠を作成することはなく、物件事故状況報告書という警察内部の書類が作成されるだけとなります。この書類は、警察官が両当事者の話を聞いた上で作成するものに過ぎず、一般的には、証拠としての力が弱いとされます。
② 人身傷害保険等の保険の利用がスムーズに行えない
次に挙げられるデメリットとして、人身傷害保険等の利用がスムーズに行えないということがあります。
人身傷害保険とは、交通事故に遭った際に、相手方の無保険・相手方からの賠償に時間がかかるなどの事情によって金銭的に困ることに備え、あなた自身が加入しておくことのできる保険です。通常、人身事故によって傷害を負った場合にはこの保険を利用できますが、交通事故が人身事故ではない場合には、「人身事故証明書入手不能理由書」と呼ばれる書類を用意し、人身事故扱われていない理由を説明する必要が生じるのです。
また、自賠責保険への保険金請求も行いにくくなります。特に後遺障害については、物損事故であれば軽微な事故であるとの推定がなされてしまうことで、認定がなされにくくなってしまうのです。後遺症が残っているはずなのに後遺障害認定されないから何らの賠償もされない、ということのないように注意が必要となります。
やはりご自身の保険であったとしても、「なぜ怪我をしたのに物損事故なのだろう。」と疑問を持たれてしまうわけです。このために、本来早急に被害回復のための金銭を受領するための制度を、迅速に利用することができなくなってしまいます。
加害者に「人身事故にしないで」と言われる理由
ちなみに、多くの交通事故では、加害者からは「人身事故にしないでほしい。」と言われます。事故直後に相手方保険会社と会話することがあれば、相手方保険会社からも同様の言葉を投げかけられることがあるでしょう。
これは、以下のような理由に基づくものです。
① 刑事罰を受けないようにするため
人身事故でなければ、「過失による器物損壊罪」はないため、交通違反を除き、刑事上不可罰となることが多いです。このため、刑事罰を免れるために物損事故にすることを求める人がいます。
② 免許停止・免許取消し等の行政処分を防ぐため
同様に、人身事故、つまり交通事故によって他者に怪我を負わせた場合には、違反点数が大きくなります。場合によっては免許停止・免許取消し等の行政処分を受けて職を失うなどの不利益を受ける可能性があるため、これを避けたがる加害者も多いです。
③ 示談金額を下げるため
また上述したとおり、物損事故であれば、人身事故と比較して軽微な事故として扱われることが多く、かつ、後遺障害認定が通りにくいです。これによって被害弁償金・示談金の金額が大きく下がる可能性があります。相手方としては、自身の負担を減らすために人身事故にしないでほしいと述べる場合もあるでしょう。
このように、加害者が「人身事故にしないで」と言っている理由はいくつかありますが、いずれも加害者側の加害者本意な事情に基づくものです。あなた自身が適正な賠償金を受領できるかという側面からすれば、少しでも怪我をしたのであれば、迷うことなく人身事故として扱ってもらうべきです。
相手方からの不当な求めに応じることなく、警察には人身事故にしてもらうように求めましょう。
警察が物損事故にしたがる理由
警察は、交通事故を人身事故として扱った場合、その捜査を行う必要があります。人身事故とである場合には、過失運転致傷罪等の犯罪が成立する可能性があるため、「犯罪」として捜査しなければならないのです。
このため、警察は業務量を増やさないように、比較的軽微な事故ですと、物損事故にしたがります。交通事故で怪我をしたのであれば、このような警察に押し負けることなく、人身事故として扱ってもらうことが重要です。
ちなみに、一度物損事故として扱われてしまったとしても、下で述べるとおり、人身事故への切替えができますから、ご安心ください。
物損事故から人身事故に切り替えるべき理由
さて、物損事故として扱われた交通事故であったとしても、後から警察に求めて人身事故として扱ってもらうことは可能です。
上述したとおり、交通事故で怪我をしたにもかかわらず物損事故として扱われている場合、①示談金額に大きな影響が出る、②後遺障害の認定に影響が出る、③事故態様・過失に争いがある場合に充分な証拠を得られないといった各種の不利益を被ることとなります。少しでも怪我をした場合には、相手方から賠償を受けることになるのですから、必ず事故を人身事故に切り替えてもらうべきです。
特に交通事故の場合、事故直後は身体に異変がなかったとしても、事故後の緊張が解けた事故翌日に急に痺れ・痛みを感じる方など、事故後少し時間をおいてから身体の不調を感じる方もいらっしゃいます。このような場合、事故直後は警察に「怪我をしていない。」と申告してしまっているかもしれませんが、やはり上記不利益を避けるために、人身事故に切り替えてもらうべきです。
物損事故から人身事故に切り替える方法
物損事故から人身事故に切り替える方法は、以下のとおりとなります。
病院を受診して診断書をもらう
まずは病院を受診して、あなたが交通事故で傷害(怪我)を負ったことを証明してもらいましょう。通常は警察署に診断書を提出することとなりますので、このために診断書を作成いただくこととなります。
この場合には、「交通事故と無関係な怪我である。」との指摘を受けないように、交通事故後、数日以内に病院を受診しておく必要があります。
警察署での切り替えの申請を行う
その後、警察署での切替申請を行います。警察署に行って交通課等の担当部署に行き、診断書を提出して人身事故に切り替える手続を取ります。
警察も、証拠が失われたり事故当事者の記憶が曖昧になったりしてからの捜査には消極的になりますから、例えば10日~2週間以内といった近いタイミングで警察に行くべきといえます。
警察の実況見分に立ち会う
その後、警察では人身事故への切替えに伴い、実況見分調書・供述調書の作成を行うこととなります。これらの手続には協力するようにしてください。
保険会社に連絡する
最後に、人身事故に切り替えたことを、ご自身と相手方の保険会社に連絡しましょう。示談交渉等のしやすさが変わることとなります。
交通事故後に人身事故に切り替えるか迷った時は弁護士へ
交通事故後に人身事故に切り替えるかどうかの判断基準は、あなたが怪我をしたかどうかです。少しでも身体に異変・不調を感じた際には、すぐに人身事故に切り替えましょう。
どうしても人身事故に切り替えるか躊躇する場合や、人身事故に切り替える手続に不安感・お悩みがある場合には、遠慮せずに弁護士にご相談ください。当事務所では、そのようなお悩み中の方からのご相談にも対応しております。
まとめ
以上のとおり、人身事故と物損事故の違いについてご説明しました。
当事務所では、多数の交通事故事件を解決した実績・経験を踏まえて、的確なご助言をすることができます。交通事故に遭われてお困りの場合は、ぜひ、当事務所にご相談ください。