1 交通事故で受け取ることができる慰謝料とは?
1.交通事故における慰謝料
交通事故に巻き込まれて被害者となった場合の解決方法について、加害者から慰謝料を受け取って示談をするという漠然としたイメージだけを持っている人も多いのではないでしょうか。実は、慰謝料は交通事故の被害者が加害者から受け取ることのできる金銭の一部に過ぎず、慰謝料自体も様々な種類に分かれています。この点をしっかり知っておかないと、示談交渉の時に不利になることもありますので、交通事故の被害者となった方は、ぜひこの記事を読んで慰謝料についての知識を深めてください。
2.慰謝料の種類
そもそも、慰謝料とは、被害者に生じた精神的苦痛を慰謝する(慰める)ための賠償金を指しますが、精神的苦痛を生じさせる原因によって、慰謝料の種類も異なります。
交通事故が原因で生じる慰謝料には、大きく次の3種類があります。
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
- 死亡慰謝料
- 後遺障害慰謝料
慰謝料の種類によって、加害者に請求することができる場面や計算の方法も変わってきますので、適正な金額の慰謝料請求を行うためには、各慰謝料の特徴をよく知っておく必要があります。
3.傷害慰謝料
傷害慰謝料とは、入通院慰謝料ともいい、交通事故の被害者がケガをしたことに対して支払われる慰謝料です。骨折や打撲、むち打ち等、診断名に関わらず、交通事故によって受傷した場合には、傷害慰謝料の発生が認められます。
4.死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故の被害者が亡くなった場合に発生が認められる慰謝料のことで、精神的苦痛を受けた被害者本人ではなく、被害者の相続人が加害者に請求することになります。
また、被害者が亡くなった場合、被害者の両親や配偶者、子供など被害者と近しい関係にある人は、自身も精神的苦痛を負うため、このような精神的苦痛に対する慰謝料(近親者固有の慰謝料)を加害者に請求することが認められています。
5.後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、事故後治療を続けても治らない症状が残った場合に、被害者が受ける精神的な苦痛に対して支払われる慰謝料です。
実務上は、自賠責保険や労災保険に対し、後遺障害の申請を行い、後遺障害認定を受けた場合に、認定された等級に応じた額の慰謝料が支払われています。
2 交通事故で受け取ることができる慰謝料の額は?
1.算定の基準について
これまでは、各種の慰謝料について、どのような場合に相手に請求することができるのかという点を確認してきました。それでは、各種慰謝料について、具体的な金額はどのように決まるのでしょうか。
実は、慰謝料を算定するための基準は複数存在し、どの基準を用いて計算するかによって、被害者の方が最終的に受け取ることのできる慰謝料の額は大きく変わってくるのです。
2.自賠責基準について
自賠責基準とは、運行する全ての自動車や原動機付自転車に加入が義務付けられている自賠責保険や自賠責共済が、保険金の支払を求められた際に慰謝料額を算定するために用いる基準です。自賠責基準は国土交通省のWEBサイトなどで公開されており、誰でも内容を確認することができます。
自賠責保険は、交通事故被害者を救済するため、最低限の対人賠償を確保するということを目的としているため、他の基準と比較して低額の算定基準となっています。
3.任意保険基準について
任意保険基準とは、交通事故の加害者が加入している保険会社が慰謝料額を計算する際に用いる算定基準です。各保険会社が独自に設けた基準を使用していますが、いずれも非公開とされているので、被害者が具体的な算定方法を確認することはできません。
自賠責基準よりも若干高い基準ではありますが、次に述べる裁判所基準と比較すると、適正な金額を算定しているとはいえません。
4.裁判所基準について
裁判所基準とは、これまで数多く起こされてきた交通事故訴訟に対する判決の蓄積から導かれる基準で、自分が被害に遭った交通事故に関して損害賠償を求める裁判を起こし、判決を受けた場合に、裁判所が認定するであろう大まかな慰謝料額を算定することができます。
裁判所基準は、日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行している損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)や、日弁連交通事故相談センターが2年に一度発行している交通事故損害額算定基準(通称「青い本」)などの書籍に記載されており、書籍を購入すれば誰でも確認することができます。ただし、集積する裁判例の違いなどによって、掲載している書籍ごとに算定方法の差異が認められます。
裁判所基準は、当事者の主張や証拠に基づいて裁判官が認定した慰謝料額をもとにした基準ですので、最も適正な基準ということができます。また、他の基準と比べて、慰謝料額が最も高額となる基準でもあり、弁護士が交渉に入る際には、基本的に裁判所基準を用いて慰謝料額の計算を行います。
5.具体例①―傷害慰謝料の違いについて
自賠責基準と裁判所基準で算定される傷害慰謝料の金額の違いについて、具体的なケースをもとに確認してみましょう。
自賠責基準の場合
自賠責基準では、傷害慰謝料の額は、対象日数1日当たり4300円とされており、対象日数は、実際に病院に通院した日数を2倍した数と、事故から完治までの期間の日数を比較し、少ない方を採用するとされています。
例1の場合、Aさんが実際に病院で治療を受けたのは、初めの1月=30日とその後の月2日×5ヶ月=10日を合わせた40日です。事故から完治までの日数は、6ヶ月≒180日ですので、40日×2=80日<180日となり、傷害慰謝料の対象日数は80日ということになります。
したがって、自賠責基準で計算した場合に、Aさんが受け取ることのできる傷害慰謝料の合計額は、4300円×80日=34万4000円となります。
裁判所基準の場合
裁判所基準では、傷害慰謝料の額は、原則として入院期間と通院期間をもとに算定します。すなわち、実際に通院した日数ではなく、事故から完治までの日数を基準として慰謝料額が決まることになります。
例1の場合、入院期間1ヶ月、通院期間5ヶ月として、赤い本に記載されている別表1をもとに慰謝料額を算定すると、141万円となります。
自賠責基準で算定するか、裁判所基準で算定するかによって、例1の場合には傷害慰謝料額に100万円以上の開きが生じることが分かりました。例1のような骨折の事案では、退院後はそれほど通院を行う必要がないというケースも多く、実通院日数に基づく算定方法では金額が低く算出されるということがあるので、特に注意していただきたいと思います。
なお、例1の場合、Aさんは治療のため入院しているので、慰謝料とは別に入院に伴い生じる雑費をBさんに請求することができますが、自賠責基準では、入院雑費は入院1日あたり1100円とされているところ、裁判所基準では、入院1日あたり1500円とされているため、受け取ることのできる入院雑費の額についても、1ヶ月の入院でおよそ1万2000円の差が生じることになります。
6.具体例②―死亡慰謝料の違いについて
死亡慰謝料の金額についても、具体的な例をもとに自賠責基準と裁判所基準の違いを確認してみましょう。
自賠責基準の場合
自賠責基準において、死亡した本人の慰謝料は400万円とされています。また、遺族の慰謝料については、請求権者1人の場合が550万円、2人の場合には650万円、3人以上の場合には750万円とされており、請求権者となるのは、被害者の父母、配偶者、子供とされています。なお、被害者に被扶養者がいるときは、金額に200万円が加算されます。
例2の場合、遺族の慰謝料の請求権者は、Cさんの奥さん、子供2人、Cさんの両親の5名ですので、遺族の慰謝料は、750万円となります。また、Cさんは奥さんと子供たちを扶養していたので、200万円が加算され、死亡慰謝料の合計額は、1350万円となります。
400万円(本人分)+750万円(遺族分)+200万円(扶養分)=1350万円
裁判所基準の場合
裁判所基準において、死亡慰謝料の額は、被害者の性質ごとに、被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料を併せた金額が示されています。しかし、ここで示されている金額は一応の目安となるものであり、各事案の具体的な事情により、金額は増減されるべきと考えられています。
例えば、赤い本においては、被害者の性質を一家の支柱、母親・配偶者、その他(独身の男女、子供、幼児等)に分類したうえで、死亡慰謝料の目安となる金額については、一家の支柱が2800万円、母親・配偶者が2500万円、その他が2000万~2500万円と示しています。
また、青い本では、被害者の性質を一家の支柱、一家の支柱に準ずる者(主婦・母親・父母や兄弟を扶養している独身者等)、その他に分類したうえで、死亡慰謝料の目安となる金額については、一家の支柱が2800万~3100万円、一家の支柱に準ずる者が2500万~2800万円、その他が2000万~2500万円と示されています。
このように、裁判所基準においても幅のある死亡慰謝料の額ですが、例2の場合、Cさんが一家の支柱であることは明らかですので、死亡慰謝料の額は2800万円前後となると考えられます。
なお、例2と類似の事案(被害者が38歳男性会社員、家族は妻と子2人)において、死亡慰謝料の額を3200万円と認定した裁判例があります(札幌地方裁判所平成18年8月11日判決)。
例2の場合、裁判所基準で算定した死亡慰謝料の金額は、自賠責基準で算定した金額の2倍以上になるという結果が出ました。先ほども述べたように、死亡慰謝料の適正な金額を算定するにあたっては、事案ごとに様々な事情を考慮する必要があります。どのような事情が考慮されるべきなのか分からないという場合には、ぜひ専門家である弁護士に相談いただければと思います。
7.具体例③―後遺障害慰謝料の違いについて
事故後、治療を続けたものの、後遺障害が残ってしまったという場合に請求することのできる後遺障害慰謝料についても、具体例とともに自賠責基準で算定した場合と、裁判所基準で算定した場合の金額の違いを確認してみましょう。
自賠責基準の場合
自賠責基準において、後遺障害慰謝料の額は、認定された等級に応じて決まっており、第12級に認定された場合の金額は93万円とされています。
裁判所基準の場合
裁判所基準においても後遺障害慰謝料の額は、該当する等級ごとに定められていますが、全体として自賠責基準よりも高額であり、第12級に認定された場合の金額は290万円とされています。
例3の場合、裁判所基準で算定した後遺障害慰謝料の金額は、自賠責基準で算定した場合の3倍以上の額となりました。なお、一番等級の低い第14級の場合でも、自賠責基準の後遺障害慰謝料額が32万円であるのに対し、裁判所基準で算定した額は110万円と、大きく開きがあることが分かります。
後遺障害認定がなされた場合、認定通知の送付と同時に自賠責保険会社から保険金が振り込まれることがありますが、その保険金は後遺障害が残存したことによる損害の全部を補填するものではないことを認識いただき、適正な後遺障害慰謝料を請求することをおすすめいたします。
3 慰謝料の増額事由は?
これまでは、各種慰謝料について基本的な計算方法を確認し、裁判所基準で計算を行うべきであるということを説明してきました。しかし、事案によっては、裁判所基準に基づき算出された慰謝料に増額分を上乗せした請求が認められることがあります。
どのような場合に慰謝料の増額が認められるのか、赤い本や青い本に記載された増額事由を中心にご紹介したいと思います。
1.傷害の態様や治療状況に応じた傷害慰謝料の増額
赤い本は、傷害の部位や程度によっては、別表Ⅰの金額を20~30%程度増額すると定め、生死が危ぶまれる状態が継続したとき、麻酔なしでの手術等極度の苦痛を被ったとき、手術を繰返したときなどは、入通院期間にかかわらず別途増額を考慮するとされています。また、青い本も、長期にわたって苦痛の大きい状態が継続した場合などは、基準額からの2割程度の増額を認めるとしています。
交通事故により被害者に生じるケガの程度はそれぞれであり、骨にひびが入ったというケガと、何時間にも及ぶ大手術を必要とする脳や脊髄、内臓のケガの慰謝料を同じ基準で算定するのは、不適切と考えられるので、このような増額事由が認められています。
2.加害行為の態様や加害者の行動の悪質さに応じた増額
交通事故の原因が、加害者の故意や重過失にある場合、裁判例は慰謝料を増額する傾向にあります。具体的には、無免許運転や飲酒運転、赤信号無視などの場合が挙げられます。このような加害者側の一方的な事情を原因とする事故においては、被害者の精神的苦痛も大きいと考えられるので、慰謝料の増額が認められています。
また、事故後の加害者の対応に著しく不誠実な対応がある場合も、被害者にさらなる精神的苦痛を生じさせるといえるので、慰謝料の増額事由とされています。具体的には、ひき逃げや証拠の隠滅、被害者への責任転嫁などが挙げられます。
一方的な加害者でありながら、特段の理由もなく被害者に対する見舞いや謝罪の意を表することがない場合、一般的には不誠実な対応であると評価されると考えられますが、実際の裁判例をみると、著しく不誠実とまで評価されるのは、これに加えて加害者の悪質ともいえる言動がある場合と考えられます。事故後の相手の態度が良くなかったので、慰謝料を相場よりも多く請求してほしいといった要望をされる相談者の方もいらっしゃいますが、慰謝料の増額が認められるハードルはかなり高いといえるでしょう。
なお、加害行為の態様や加害者の行動の悪質さに応じた増額は、慰謝料の種類にかかわらず、認められています。以下に、増額が認められた裁判例をご紹介しますので、参考にされて下さい。
- 19歳の男子大学生が亡くなった交通事故について、加害者が一方的かつ重大な過失によって被害者を死亡させたにもかかわらず、事故後逃走を続け、逮捕後も完全黙秘し、刑事裁判でも事故は被害者のせいであるなどと述べ、被害弁償を全くせず、謝罪の言葉すら述べないことなどを考慮して、死亡慰謝料として3000万円(通常の裁判所基準では2000~2500万)を認めた(東京地裁平成15年5月12日判決)。
- 被害者である41歳の男性会社員が徒歩で横断中に、加害者からクラクションを鳴らされたため、被害者が加害車両に近づいたところ、加害者が車両を発進衝突させ被害者をボンネットに乗せたまま約12メートル進行し、被害者を路上に転落させて、頭部挫傷などのケガを負わせた事故について、暴行傷害の故意があったこと、事故後逃走したこと等から通院76日分として傷害慰謝料130万円(通常の裁判所基準では63万2000円)を認めた(京都地裁平成21年6月24日)。
3.被害者の親族が精神疾患に罹患した場合
精神的苦痛の大きさを評価する際の一材料として、親族が精神疾患に罹患したことが挙げられます。精神疾患を発症したということは、それだけ精神的苦痛が大きいことを示す事情といえるので、増額事由に挙げられています。
4.その他
1~3で挙げた事由以外にも、慰謝料の増額が認められる理由となる事情は様々考えられますが、多くの場合、交渉段階でこれらの事情を相手に伝えても慰謝料額に反映されることはありません。相手の提示する慰謝料額に納得がいかず、示談ができないという場合、最終的には訴訟を提起して裁判所の判断を仰ぐということになりますが、そこでどのような事情をどのように主張するべきなのかという点については、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
4 こんなとき慰謝料が認められる?
これまでお伝えしてきたのは、基本的に、交通事故によって被害者がケガをした場合や死亡した場合の慰謝料についてのお話でした。それでは、次のような場合、加害者に対する慰謝料請求は認められるのでしょうか。
- ケース1:新車で購入した車が、納車後すぐに事故に遭い、事故歴がついてしまった。修理費とは別に慰謝料を請求したい。
- ケース2:ペットと散歩中に交通事故に遭い、ペットが亡くなってしまった。ペットが死亡したことによる精神的苦痛に対する慰謝料を請求したい。
- ケース3:子供が交通事故に遭い、植物状態となって、後遺障害等級第1級に認定された。親として受けた精神的苦痛について慰謝料を請求したい。
- ケース4:後遺障害等級の認定はされなかったが、症状は残っているので、後遺障害慰謝料を請求したい。
ケース1の場合(物が壊れたことに対する慰謝料請求)
交通事故により、車を含む「物」に損害が生じた場合、原則として持ち主による慰謝料請求は認められておらず、請求が認められるためには被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害する特段の事情が必要とされています(東京地裁平成元年3月24日判決)。
ケース1のような場合でも、壊れたのが新車であるという事実だけでは特段の事情があるとまでは認められず、加害者に慰謝料請求を行うことはできないと考えられます。
一方で、ケース1のように、修理は完了したものの、車体骨格部などに大きな損傷を負ったため、事故歴・修復歴がついてしまったという場合、一般的に事故歴・修復歴のある車両は中古車市場で敬遠される要素となるため、取引価格の低下が見込まれます。このような評価額の低下を評価損といい、加害者に対して評価損の賠償請求をすることができる場合があります。
では、どのような場合に評価損の請求が認められるのでしょうか。過去の裁判例において、評価損が認められた事案と認められなかった事案を分析すると、裁判所は次のような観点から評価損の発生の有無を認定していると考えられます。
①事故車両の車種
外国車や国産高級車は評価損が認められやすくなっています。一方で、業務用車両は交換価値よりも使用価値を重視する傾向があるため、評価損が否定される要素といえます。
②走行距離
走行距離が少ないほど評価損が認められやすくなっています。具体的には、走行距離が5万kmを超えると評価損が認められにくくなる傾向にあるといえます。
③初年度登録からの期間
期間が短いほど評価損が認められやすくなっています。登録から1年未満であれば多くのケースで評価損が認められているのに対し、登録から3年を超えると評価損の発生が認められにくくなっています。
④損傷の部位・程度
車体骨格部分への損傷・修復は評価損を認める方向に働きます。乗用車の場合、フレームやクロスメンバー、ピラー、トランクフロアなどを損傷すると車両に修復歴がつくため評価損が認められやすくなっています。また、部品の交換が必要となるなどした結果、修理費用が高額になることも、評価損が認められやすくなる要素の一つといえます。
以上、①~④の要素を総合的に考慮して裁判所は評価損の発生が認められるか否かを判断しています。では、評価損が認められるとして、具体的に加害者に請求することができる金額はどのように計算されるのでしょうか。
評価損の算定方法として一般的に用いられているのは、修理費に一定のパーセンテージをかけて評価損の額を算定する方法です。①~④の要素を検討した結果、評価損を肯定する要素が多く認められる場合で30%、少ない場合には5%というように、裁判例においてもかなり幅のある認定がなされています。
評価損は、発生が認められる要件も具体的な額の算定も明確な基準があるわけではないので、自分の車両に評価損が生じているのではと思った方は専門的な知識や経験をもつ弁護士に相談されることをお勧めいたします。
ケース2の場合(ペットの受傷、死亡に対する慰謝料請求)
1で述べたように、物損に関する慰謝料は原則として認められていません。また、ペットは法律上、動産すなわち「物」として扱われますので、飼っているペットが亡くなったことに対する慰謝料も認められないのではと思われます。
しかし、現代においてペットは家族の一員であるという認識は社会に広く浸透しており、交通事故の損害額算定において、ペットを単なる物として扱うことには、多くの人が違和感を覚えることでしょう。実際、ペットの受傷や死亡による飼い主への慰謝料の発生が多くの裁判例で認められています。
具体例として、以下のような裁判例が挙げられます。
- 飼育していた飼い犬のうち、パピヨンが死亡し、シーズーが骨折したという事案において、犬の死傷による飼い主の慰謝料として10万円を認めた事案(大阪地裁平成18年3月22日判決)。
- 8歳のラブラトールレトリバーが腰椎圧迫骨折の傷害を負い、後ろ足の麻痺が残った事案において、飼い主夫婦の慰謝料として合計40万円を認めた事案(名古屋高裁平成20年9月30日判決)。
ケース3の場合(被害者に後遺障害が残ったときの親族固有の慰謝料請求)
交通事故の被害者が死亡した場合に、遺族が負う精神的苦痛に対する個別の慰謝料請求が認められることは、前に述べましたが、被害者が死亡していない場合であっても、親族は精神的苦痛を被ったとして個別の慰謝料請求をおこなうことができるのでしょうか。
この点について、被害者が死亡した場合ではなくても、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には、近親者にも慰謝料請求権が認められるとした判例があり(最高裁昭和33年8月5日)、この考え方によれば被害者が死亡していなくても、後遺障害が残存したことで被害者が死亡した場合と同等の精神的苦痛を受けたといえる場合には、親族からの慰謝料請求が認められることになります。
実際に、被害者である8歳の女の子が植物状態となった事案において、その母親に対し、未婚の母として単身被害者を養育しその成長を楽しみにしていたが、事故で被害者の進学等の夢を奪われ、老いるまで被害者の看護にあたらなければならず、被害者の将来に不安を抱くこととなったこと等の事情から800万円の慰謝料を認めた裁判例があります(横浜地裁平成12年1月21日)。
ケース4の場合(後遺障害の認定がない場合の後遺障害慰謝料)
基本的に、後遺障害認定がなされていない後遺症について、後遺障害慰謝料の発生が認められることはありません。
ただし、顔や手足に傷痕が残ったものの、後遺障害認定がなされる程度には至らない大きさだったなど、後遺症の残存が客観的にも明らかである場合には、他の事情を考慮したうえで、慰謝料の発生を認めた裁判例がいくつか存在しています。
それでも、後遺障害認定がなされていない場合に後遺障害慰謝料が認められるのはかなり稀なケースですので、後遺症が残存した場合には、適切な等級の後遺障害認定を得ておく必要があるといえるでしょう。弁護士法人グレイスでは、後遺障害申請のサポートも行っておりますので、自身の後遺症について適切な等級認定がなされていないとお考えの方は、ぜひ一度ご相談下さい。