交通事故に関するよくあるお悩み
当事務所では毎月たくさんのご相談やお問い合わせを受けており、さまざまな解決策を提示させて頂いております。その中でも、よくあるご質問について、Q&Aとしてまとめました。
少しでも皆さまの不安や疑問を解決する手助けになれば幸いです。ご自身の状況についてもっと具体的に質問したい、という場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。
示談交渉に関するお悩み
- 保険会社や交通事故加害者の対応が不誠実です。慰謝料を増額することはできませんか?
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交通事故の賠償金額は、良くも悪くも、各損害項目ごとにある程度定型化されています。
交通事故に遭ったときの慰謝料は傷害慰謝料(入通院慰謝料ともいいます)と後遺障害慰謝料の二つがありますが、いずれも定型化されているため、それ以上の金額をというのはなかなか困難です。
まず裁判になったときにどのような事例であれば慰謝料増額が認められるかというと、重度の酩酊状態での飲酒運転、著しい信号無視、証拠隠滅行為、生死の境目をさまようほどの重大な事故といった特段の事情がある場合だけです。謝罪に来ない程度では残念ながら慰謝料増額は認められていません。
一方、示談交渉の段階では、保険会社は慰謝料増額事由があってもそれをそのまま受け入れることはしません。しかし、示談交渉は良くも悪くも裁判のルールに必ずしも則る必要が無いため、ごくまれに受け入れてくれることがあります。
慰謝料増額事由に当たらないのに慰謝料増額の主張をする場合、こちらも裁判のルールに則っているわけではないため完全に「お願い」になってしまいますが、かといって慰謝料増額してほしいぐらい精神的苦痛を被っているのに最初から増額の主張をしないというのも不自然だと考えています。
- 交通事故に遭って家事労働ができなくなったのに、保険会社から主婦で収入の減少が無いので休業損害はゼロであると言われたんですが本当ですか?
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さすがに最近このようなことを言ってくる保険会社は殆ど無いですが、ごくまれにあります。
しかし、最高裁判所は最判昭和49年7月19日民集28巻5号872頁にて
「結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によって現実に金銭収入を得ることは無いが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価しうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである」
「具体的事案において金銭的に評価することが困難な場合が少なくないことは予想されうるところであるが、かかる場合には、現在の社会情勢等にかんがみ、家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年齢に達するまで、女子雇用労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である」と判示しています。
よって、主婦だから休業損害が支払われないというのは誤りです。
また、兼業主婦の場合であっても、主婦の休業損害を請求することは可能です。 保険会社は給与所得者だからといって主婦の休業損害を支払うことに否定的であることがありますが、実収入額が女子雇用労働者の平均的賃金を下回る場合には主婦の休業損害を請求することは可能です。
ただし、日中はフルタイムで仕事していて、給与所得の減収が無いのであれば、主婦の休業損害が満額認められないこともありますので注意が必要です。
なお、これらは症状固定になったあとの示談交渉での話で、症状固定になる前の内払いの段階はまた別問題です。保険会社も賠償金の総額がいくらになるか分からない状況では払い渋りになることが多いため注意が必要です。
- 保険会社から、交通事故前からの既往症があるので賠償金を減額すると言われました。なぜですか?
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元々御病気をお持ちの場合、その病気が寄与して症状が悪化したり後遺障害が残存したりすることがあります。
このとき、裁判所は賠償金の全てを加害者の負担とすることはできないと考え(「損害の公平な分担」という言葉をよく用います)、賠償金を減額します。これを踏まえて、示談交渉時にも保険会社は賠償金の減額を求めてきます。
これに対して交通事故被害者は「事故前はそんな症状は無かった」と訴えたいだろうと思いますが、それよりも先に、保険会社が主張する既往症が「疾患」といえるものかどうか、その既往症が真に症状や賠償金に影響を及ぼしているのかどうかを検討したほうがいいです。
なぜならば、最高裁判所は最判平成8年10月29日民集50巻9号2474頁にて、
「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができる」
「しかしながら、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」と判断しているからです。
既往症があると言われたときは、本当にそれは既往症なのか、既往症だとして賠償金を減額しなければならない既往症なのか、検討する必要があります。
- 交通事故に遭って後遺症が残ったのに後遺障害逸失利益は認められないと言われました。なぜですか?
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後遺症が残ったのに後遺障害逸失利益が認められないパターンはいくつかあります。
まず、「後遺症」は残ったけれども自賠責が定めている「後遺障害」には該当しないパターンです。
例えば、肋骨を骨折して、骨折自体は治ったけれども体を動かしているとたまに胸のあたりに痛みが走るような事案がこれに当たります。詳細は言及を避けますが、例えば肋骨骨折後の胸部の疼痛は、よほどのことがないかぎり、自賠責が定めている「後遺障害」には該当しません。
また、後遺障害に該当するけれども後遺障害逸失利益が認められないパターンもあります。
その一つのパターンは、後遺障害が労働能力に影響を及ぼさないパターンです。 歯が折れて補綴せざるを得なくなった場合や大きな手術痕が胴に残った場合、骨折後に変形して癒合した場合などが、このパターンに該当します。事情によっては後遺障害逸失利益が認められる場合がありますが、多くの裁判例は後遺障害逸失利益を認めていません。
もう一つのパターンは、後遺障害が労働能力に影響を及ぼすけれども、本人が就労していないパターンです。 ただし、これには注意が必要で、例えば事故当時無職だった場合でも本人に就労の意思や就労の蓋然性が認められる場合には後遺障害逸失利益も認められる傾向にあります。
また、無職であったとしても、他人の家事に従事していた場合には、家事労働者として後遺障害逸失利益が認められることもあります(「他人のため」の家事に従事していることが必要で、「自分のため」の家事であるならば、後遺障害逸失利益は認められません)。
- 交通事故に遭ったのですが、保険会社から提示された過失割合に納得できません。どうしたらいいですか?
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過失割合が最初に問題になるのは、車の修理費用の話し合いのときだと思います。おそらく「修理費用を全額支払うことはできない。なぜならば~」といった話が保険会社から出ているものと思います。
この過失割合というのは、「損害の公平な分担」という観点から、交通事故が発生したことについて被害者にも責任があり、発生した損害の全てを加害者の責任にするのは不公平であると判断される際に、発生した損害の一部を被害者にも負担させるというものです。
この「発生した損害」というのは、被害者に発生した損害だけでなく、加害者に発生した損害も含まれるので注意が必要です。
そのため、例えば、過失割合は加害者が8悪く、被害者が2悪い案件であっても、加害車両の修理費用が100万円である一方、被害車両の修理費用が10万円しか発生しなかった場合には、被害者が請求できる修理費は8万円であるのに対し、加害者も被害者に発生した修理費用の2割分の20万円を被害者に請求できますので、加害者のほうが悪いのに、被害者が12万円支払わないといけないという奇妙な事態が発生することもあります。
(計算式)100,000円×0.8-1,000,000円×0.2=-120,000円
一方、この過失割合に強いこだわりを持つことにも注意が必要です。
例えば、優先道路を走行していたところ加害者が一時停止せずに交差点に進入してきたため出会い頭に衝突したような案件の場合、「私は悪くない」と仰りたいだろうなと思います。しかし、過去の裁判例に則ると優先道路を走行していた側にも一定の過失があると判断されてしまうのが原則です(具体的な過失の数値は事案によります)。
被害者に全く過失が無いような事故は、被害車両が動いていないところに加害車両が衝突してきたとか、加害車両が追突してきたとか、加害車両がセンターラインオーバーしてきたとかといった事故に限られ、双方動いていれば被害者にも一定の過失があると判断されることが殆どです。
また、中には「警察の人が『あなたは悪くない』と言っていたから、自分には過失が無い」と主張するのも注意が必要です。
警察官は、検察官とともに、「加害者は誰か」「加害者にどのような刑事処分を下すのが適当か」といった観点に強い関心を持っていて、具体的な過失割合までは知らないことが多いです。交通事故の損害賠償は刑事事件ではなく民事事件であり、「加害者は誰か」「加害者にどのような刑事処分を下すのが適当か」というのは刑事事件の世界です。
一方の過失割合は、「加害者と被害者に発生した損害をどのように分担するのが適当か」という問題であり、民事事件の世界ですので、全く別物です。そのため、具体的な過失割合について、警察官や検察官の判断が誤っていることもよくありますので注意が必要です。もちろん、その判断が正しいこともたくさんありますし、一つの参考にはなりますので、弁護士との面談の際には警察官や検察官が何と言っていたのか教えて頂きたいです。
それから、以上をご覧になった上でこんなことを申し上げるのも何ともですが、仮に過失割合に納得できない場合には、安易に示談書に判子を押したり過失割合について口頭で合意したりしないでください。
一挙手一投足がその後の交渉や裁判に影響を及ぼします。 後から撤回しようとしても撤回できないことが多いです。これは弁護士が介入しても同様です。
車の修理費用の話し合いの中での過失割合の合意であっても、それが怪我の損害賠償の過失割合にも影響を及ぼしかねません。そして、怪我の損害賠償の場合には、過失が1割違うだけで最終支払額が何十万円何百万円と違うことがあるため慎重に判断しなければなりません。
もし少しでも不安に思われたら、過失割合について合意する前に、一度保険会社に根拠資料を提示してもらうようにしてください。