2021年7月8日
交通事故被害者の賠償金額が数倍変わる!?最新の最高裁判所の判断
【1】事故・傷害部に所属しております弁護士の林田です。
今回は、皆様にも知っていただきたい交通事故に関する画期的な最新の最高裁判所の判例(令和2年7月9日第一小法廷判決)をご紹介させていただきます。
【2】まず、交通事故の被害に遭った場合に被害者に後遺症が残存し、後遺障害逸失利益(後遺障害の影響によって将来得られるはずであった収入を失ったという損害)が発生することがあります。
これまで後遺障害逸失利益の支払については、将来得られるものを今現在、「一時金」(一括払い)として支払を受けるという方法を採用しておりました。
この「一時金」という形での支払いの場合には、将来獲得するものを今現在受け取るということから中間利息控除(利息分を差し引く)を行わなければなりませんでした。
【3】今回の最高裁判所の判断では、後遺障害逸失利益について「一時金」の支払ではなく「定期金」(毎月の支払)を認め、中間利息控除を行わないという判断がなされました。
この定期金での賠償を認めたことによって、後遺障害逸失利益について毎月、毎月の支払を認めたことから、将来に渡っての利息控除をする必要がなくなり、これまで一時金の支払の際に行っていた「中間利息控除」はされないという判断がなされました。
この判断から必然的に後遺障害逸失の額が増額することになりました。
【4】実際に具体的な計算式を見ていただければ一目瞭然の結果となります。
例)年収600万円の被害者が交通事故に遭い、労働能力が50%にまで低下し、被害者は今後30年勤務が可能であったと仮定した場合の後遺障害逸失利益について、下記の通りの差が出てきます。
一時金での支払いの場合
後遺障害逸失利益58,801,200円となります。
計算式)6,000,000円(年収)×50%(労働能力喪失率)×19.6004(労働能力喪失期間30年に対応するライプニッツ係数)=58,801,200円定期金賠償の支払の場合
後遺障害逸失利益90,000,000円
計算式)6,000,000円(年収)×50%(労働能力喪失率)×30年(労働能力喪失期間)=90,000,000円
【5】このように、「一時金」の支払と「定期金賠償」の違いだけで31,198,800円の差額が出てきます。後遺障害の内容が重い場合には労働能力喪失率も上昇するため、一時金賠償と定期金賠償の差はさらに広がります。
【6】今回の最高裁判所の判断で交通事故実務に大きく影響することが考えられます。実際の運用として毎月の定期金の支払を現実に保険会社が管理をするのか、その他の損害については中間利息控除を行うのか等、まだまだ解決できていない問題があります。
【7】我が国では、交通事故は保険会社が処理を行うというシステムが構築されているがゆえに実際に交通事故被害者が適切な賠償金を受け取ることができていないという現状があります。
弊所では、EAP(従業員支援プログラム)と称し、従業員の皆様の法的問題のサポートも実施しておりますので、交通事故に遭われた際には、お気軽にご相談いただければと思います。