2021年7月8日
後遺障害逸失利益の賠償金を一括で受け取るのか、定期金として受け取るのか…最高裁判所が初の判断を下しました(令和2年7月9日 第一小法廷判決)
これまで、交通事故の損害賠償金の支払いは「一括での支払い」が原則です。
具体的には、被害者が後遺障害逸失利益(後遺障害の影響によって将来得られるはずであった収入を失ったという損害)の支払を加害者から受けるとき、「将来」の獲得する収入を「今現在、一括で受け取る」という内容のものでした。
将来の獲得するべきものを今現在で受け取るということから、賠償金から中間利息控除(利息分を差し引くということ)を行わなければなりません。
この中間利息控除との考え方があるため被害者側の立場として受け取る賠償金額が変わることから問題となっていました。
以下の例で言えば、定期金賠償と一括賠償では5000万円と約3700万円となり約1300万円もの差額がでてきます。
例)年収500万円の被害者が交通事故によって労働能力が50%にまで低下したと仮定します。そして、後20年間働けると仮定します。
これまでの一括払いの場合
※後遺障害逸失利益は37,192,500円となります。
計算式)5,000,000円×労働能力喪失率50%×14.877(20年に対応したライプニッツ係数)=37,192,500円定期金賠償の場合
※後遺障害逸失利益は50,000,000円となります。
ただし、一括ではなく、毎月支払われるという仕組みとなります。
計算式)5,000,000円×労働能力喪失率50%×20年=50,000,000円
定期金賠償について最高裁判所の判断
…不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を填補して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするとこである。
このような目的及び理念に照らすと交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき、将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに、上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認める場合がある。
…定期金による賠償の対象となるものと解される
定期金賠償で解決した後に被害者が死亡した場合について
今回の最高裁の判断においては、定期金賠償を認めたことだけでなく、定期金賠償を認めた上で後遺障害逸失利益の終期について、被害者が認定された終期よりも早く亡くなった場合の後遺障害逸失利益についても言及しています。
この点について、実際に認定された終期よりも早く亡くなった場合においても、「…交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的な事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解する」として、就労期間の終期までの後遺障害逸失利益を認めました。
事故・傷害部弁護士としての所感
定期金賠償を認める初の最高裁判所の判断です。
これは、被害者側として選択肢が増え、最終的な賠償金の獲得金額も多くなる可能性があり交通事故の被害者にとって重要な判決であると感じております。
他方で、定期金賠償となった場合には、相当長期間に渡って定期的な賠償金の振込の管理を行わなければならないこと、加害者側としても被害者の回復に応じて賠償金の減額請求が可能であることから判決獲得後においても加害者保険会社から定期的な接触が予測されます。裁判が終わったとしても被害者の負担が続く可能性があります。
さらに、今回の最高裁の判断は「後遺障害の逸失利益」に関する判断です。
被害者がお亡くなりになった事故の「死亡における逸失利益」については判断されておりませんので今後の裁判の結果が重要になってきます。
今後、定期金賠償の管理方法や被害者の負担軽減、任意での定期金賠償の仕組みづくりなど具体的な運用の動向に目を向けていかなければならないと考えております。