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保険会社が嫌がることとは
「保険会社が嫌がることはなんでしょうか」と相談者に聞かれることが少なくありません。
私は保険会社で勤務したことがありませんので、保険会社がどのようなことをされると嫌がるのかということについては想像になってしまいますが、日々の実務から感じることを説明します。
私たちは保険会社で勤務したことがありません。そのため、保険会社がどのようなことをされると嫌がるのかという問題については想像を超えることはできませんが、日々の実務から感じることを説明してみたいと思います。
「保険会社が嫌がること」といった場合、2通りの意味があるように思います。
一つは、被害者側の主張や証拠が賠償金を払う側(保険会社)にとって痛いところをついており、高額な賠償金を払わなくてはならないというような場合です。これは、被害者にとって良いことですので、このような意味での「保険会社の嫌がること」に当てはまるとおもいます。この意味では、被害者側の弁護士として、しっかりと行っていく必要がある部分です。
一方で、被害者側の行為が、保険会社を不必要に警戒させたり、場合によっては治療費の打ち切り(一括対応の中止)等を招くこともあります。このような事態を招く被害者側の行為も「保険会社の嫌がること」といえます。もちろん、被害者としての正当な権利は当然主張していかなくてはなりませんが、不必要に保険会社と対立することは、被害者にとってもマイナスです。今回はこのような「保険会社が嫌がること」についても説明していきたいと思います。
1.被害者にとって良い意味での「保険会社の嫌がること」
被害者にとって良い意味での「保険会社の嫌がること」とは、保険会社と交渉する上で、やっておくべきことです。
(1)通院をしっかり行うこと
治療中に保険会社と対立することが多い問題の一つに治療費の打ち切りがあります。
特に他覚所見のない頚椎捻挫、腰椎捻挫等のいわゆるムチウチのケースでは、問題になることが多いです。
保険会社が治療費の支払を打ち切ることのきっかけの一つとしては治療期間が空いてしまうことが挙げられます。これは、治療期間が空いてしまうと、もう治ったのではないかと推測されるためです。
治療期間が2~3週間空いてしまうと、保険会社は治療費支払い打ち切りを打診してくることが多いように思います。逆にいえば、通院の頻度がそれなりにあると保険会社としては治療費の支払を打ち切りにくくなります。
したがって、被害者としては、症状がある場合は、医師の指示に従い、それなりの頻度で通院することが重要です。
(2)症状については受傷から早い段階で記録に残してもらうこと
事故から数カ月経ってからしびれが出てきた、耳鳴りする、めまいがすると訴えられる被害者もいます。よく事情を聴いてみると、事故から間もない時期にしびれ、耳鳴り、めまい等があったものの、医師に伝えていなかったということが判明することがあります。
事故から数ヶ月経過して、これらの症状が出てきたとなると、保険会社は事故との因果関係を疑います。そのため、これらの症状を治療するための治療費を支払ってもらえないという事態に陥ります。
このような事態を避けるためには、症状が出てきた際には、直ちに医師に訴え、それを診療録等に残してもらうことが重要になります。
保険会社も、事故から間もない時期にこれらの症状が、医療記録に記録されていれば、因果関係を否定しにくくなります。また、検査等ができる病院も紹介してもらい、症状の事故との因果関係を明らかにできれば、後の後遺障害申請や交渉の際に役に立ちます。
症状が出てきた際は、すぐに医師に申し出て記録に残してもらうことが治療費の支払を確保するうえでとても重要です。
(3)医師が休業が必要と判断している際は、休みましょう
事故の怪我で本当は仕事を休みたかったがとても休める状況ではなかった、辛い思いをして仕事をしたのだからその分を休業損害として賠償をしてもらえないのかという趣旨の相談を受けることがあります。
しかし、休業損害は、実際の減収分を補うものですので、どんなに痛みをこらえて仕事をしていたとしても、減収がなければ休業損害が認められることはありません(慰謝料として考慮されることはありますが、金額は少ないと考えられます)。
そのため、医師が休業を必要と判断していたとしても、実際に仕事を休まなければ休業損害は認められないのです。
医師が休業を必要と判断しているということは、仕事で体に負担をかけることが治療にとってマイナスということです。医師が休業を必要と判断している場合は、無理をせずに休みましょう。
(4)過失相殺がありうる事案では健康保険や労災保険を使うこと
「保険会社が嫌がること」とはちょっと違いますが、出会い頭の事故等加害者、被害者双方に過失が認められる事案では、健康保険や労災保険を使って治療をすることをお勧めします。
これは、双方に過失が認められる事案では、健康保険や労災保険を使って治療をした方が、被害者が最終的に受け取る示談金が高額になるためです。
健康保険や労災保険を使うことを申し出ても、保険会社は嫌な顔をしませんし、むしろ喜ぶでしょう。また、被害者にとってもメリットが大きいです。
双方に過失がある場合は、健康保険や労災保険の使用を考えてください。
(5)確定遅延損害金
保険会社と交渉する際には、「裁判になった際には、遅延損害金と弁護士費用が加算されるので、交渉段階でこちらの請求通り払った方がそちらにとってもメリットがありますよ」という趣旨の話をする弁護士もいます。
しかし、保険会社の職員も百戦錬磨ですので、このくらいのことでは譲歩は引き出せないことが多いです。
しかし、裁判になった際には、確定遅延損害金という項目が発生する事案があります。
特に重傷の事案については、この確定遅延損害金が高額になることがあり、この点を詳しく説明すると、保険会社の譲歩を引き出せることがあります。
確定遅延損害金は、計算方法が若干複雑ですので、計算が面倒ではあるのですが、保険会社との交渉の切り札になることがあります。
(6)定期金賠償
最高裁で、逸失利益について定期金賠償が認められました。
定期金賠償は簡単に言ってしまえば、賠償金の年ごとの分割払いです。逸失利益を年ごとの分割払いにすると、中間利息を控除する必要が無くなりますので、トータルで支払う金額が跳ね上がります。
そのため、重傷の事案については、交渉段階において、訴訟で定期金賠償を求めるということを伝えると、保険会社側が大幅に譲歩するケースが出てきています。
重傷事案については交渉段階から定期金賠償の理論をうまく使っていくことが重要になります。
(7)弁護士への相談・依頼
保険会社の職員は多くの交通事故事案を処理しており、交通事故の賠償交渉についてはプロです。これに対し、被害者の方は初めて事故に遭うという方が大半だと思います。保険会社の職員は、この知識、経験の差を利用し、被害者の方に対して有利に交渉を進めていきます。
しかし、被害者が交通事故に特化した弁護士に相談・依頼した場合、この有利な地位は無くなります。
また、弁護士は、保険会社が使う賠償の基準ではなく、より適正かつ高額な裁判基準で賠償金を算定し、裁判基準かそれに近い金額でなければ示談しません。そのため、弁護士が介入した場合、保険会社は支払う賠償金額が大幅に増えることになります。
被害者が弁護士に依頼するということが、保険会社の最も嫌がることかもしれません。
2.被害者にとって悪い意味での「保険会社の嫌がること」
被害者にとって悪い意味での「保険会社の嫌がること」とは、保険会社と交渉する上で控えておいた方がいいことです。
(1)加害者に直接連絡をする
交通事故に遭った場合、加害者が任意保険に加入していれば、通常は、相手方の任意保険会社が被害者に対する窓口になります。そのため、加害者本人が表に出てくることはほとんどありません。
怪我をした被害者は苦しい思いをしているのに、事故を起こした加害者は保険会社にすべて任せて、これまでどおり日常生活を送っているということについて、憤りを感じる方は少なくありません。
被害者側の代理人としても憤りを感じることがありますが、日本の制度として保険会社が交渉の窓口になっている以上、加害者本人に直接連絡をとることは原則として避けなくてはなりません。
被害者の方の中には、保険会社から注意があったにもかかわらず、加害者本人に直接連絡をとり、賠償の交渉をしようとする方がいらっしゃいます。これは避けるべきです。
加害者が任意保険に加入している以上、加害者が負担すべき賠償金は保険会社が代わりに支払います。そのため、加害者本人に請求したとしても、加害者本人が支払うことはありませんし、請求の態様によっては恐喝罪等にも問われかねません。
また、保険会社が負担していた治療費の支払等も止められる可能性がありますし、保険会社が弁護士を選任して、交渉の窓口を弁護士にしてしまうこともあります。
弁護士が交渉の窓口になった場合、治療費や休業損害についても、因果関係をかなり厳しく判断しますし、また、弁護士⇒保険会社という経路で交渉が進みますので、治療費や休業損害の支払いが通常よりも遅くなることが多いです。
加害者に直接連絡をしたい気持ちは理解できますが、これは保険会社の態度を硬化させるだけで、被害者にとってメリットがありません。
加害者に保険会社がついている場合は、加害者に直接連絡をとることは避けましょう。
(2)法的に通らないことに固執する
「車を購入してすぐの事故だから、修理費ではなく車を新車に替えてくれ」「車の時価30万円での賠償では車が修理できないので、修理費60万を払ってくれ」というような請求は、弁護士が入って裁判をしたとしてもまず通りません。法的に認められない要求は、保険会社はまず受け入れません。
法的に認められないことに固執すると、結果は変わらないのに解決が長引いてしまいます。保険会社の説明が信用できないという場合は、ご自身の請求が法的に認められるのか否かを弁護士に相談してみましょう。法的に正当化されない内容にいたずらに固執するのは得策ではありません。
(3)根拠がない請求
保険会社は、損害が発生していることを示す客観的な資料を提出すると、比較的スムーズに賠償金を支払ってくれます(中には客観的な資料を提出しても、根拠なく支払いを拒む保険会社もありますが)。
どんなに損害が発生していると主張しても、それを証明する客観的な資料がなければ、保険会社はその損害に対して賠償金を支払ってくれることはありません。これは当然といえば当然です。
しかし、実務ではこの点がそれなりに問題になります。個人事業主の方に多いのですが、確定申告をしていなかったり、申告が過少であったりと、事故前の収入を証明できないケースがあります。このような場合、保険会社との交渉はかなり難航します。収入の存在を裏付ける客観的な資料をまず探すようにしましょう。
(4)不正な請求
痛くもないのに慰謝料目当てで通院を続ける、勤務先が家族の経営する会社であることを利用し、休んでもいないのに休業損害証明書を書いてもらう等、このような不正な請求を保険会社は最も嫌います。このような行為が判明した場合は、弁護士も事件をお受けできませんし、詐欺罪に問われることもあります。
不正な請求は絶対にすべきではありません。
3.当事務所での実例
(1)ご相談にいらっしゃる被害者の中には、「まだ痛みやしびれが残っているのに保険会社が治療費の打ち切りを打診してきた、何とかならないか」と訴えられる方が少なくありません。詳しく話を聞いてみると、仕事が忙しくて一月以上治療に行くことができなかった等の事情が判明することがあります。特にムチウチの被害者の方に多いようです。
一月以上、治療期間が空いてしまうと、治療費支払い再開させることは難しくなります。そのため、痛みやしびれが残っていたとしても、保険会社の負担ではなく、自費で通院することになってしまいます。
痛みやしびれがまだ続いているという場合は、医師の指示に従い、定期的に治療やリハビリに励むことが重要になります。事故から間もない時期にご相談いただけると、上記の打ち切りのリスクを説明の上、医師の指示に従った定期的な通院についてアドバイスすることが可能です。
もっとも、症状がないのに慰謝料等を上げるために通院することは避けるべきですし、そのような被害者の方のご依頼はお受けしておりません。
(2)事故から2ヶ月ほど経ってから、「耳鳴りがするので耳鼻科に行きたいと思い保険会社に伝えたが、断られた」というようなケースもよく相談があります。
これも詳しく聞いてみると、事故から数日して耳鳴りが出てきたという事情が判明することがあります。このような場合、医学的にも事故と因果関係が認められる可能性が高いので、本来であれば保険会社が治療費を負担するべきです。
しかし、事故から間もない時期の医療記録にこれらの症状が記載されていない場合、保険会社は因果関係がないとして治療費の負担を拒むことが多いです。事故から間もない時期にご相談に来ていただければ、このような点もアドバイスができますので、保険会社とのトラブルもなく、治療を進めることが可能になります。
(3)過失相殺がある事故の場合、健康保険を使って治療をするかどうかで、最終的な示談額が大きく変わってきます。この点をご存知ない被害者の方は多いです。治療終了間際にご相談にいらっしゃる方もいますが、健康保険への切り替えを遡って行うことは難しいです。
そのため、事故から早い時期に弁護士と相談し、最適な治療プランを考える必要があります。
(4)当事務所では、交渉段階から積極的に確定遅延損害金を請求し、保険会社と交渉しています。確定遅延損害金を主張して交渉すると、重傷の事案では、保険会社から大きな譲歩を引き出せることが多いです。
(5)定期金賠償は、令和2年に最高裁で初めて認められた理論です。交渉で、定期金賠償を認めさせることは現時点では難しいと思いますが、交渉の中で積極的に主張することで、保険会社から譲歩を引き出すことができる場合があります。
まだ、最高裁判例が出てから日が浅いですが、当事務所では重度後遺障害事案については、交渉段階から定期金賠償の理論を主張し、交渉のみで高額の賠償金を獲得している事案がございます。
4.交通事故については弁護士への依頼を
このページでは、「保険会社が嫌がること」について、被害者にとって良い意味での「保険会社の嫌がること」、被害者にとって悪い意味での「保険会社の嫌がること」という二通りの視点で解説いたしました。
交通事故の中には、時間が経過してしまうと対処が難しくなるものあります。そのため、交通事故に遭われた場合は、早期に交通事故を得意とする弁護士に相談し、治療や賠償の方針を固める必要があります。
また、保険会社がもっとも嫌がることは、被害者が弁護士に相談・依頼をすることではないでしょうか。当事務所の過去の事案を振り返っても、弁護士が介入して賠償金が上昇しなかった事案というのはほとんどありません。保険会社も営利企業である以上、支出が増えることは避けたいはずです。
このような点からも、弁護士への相談・依頼こそが保険会社が最も嫌がることだと考えられますし、適正な補償を受けるという点からも、交通事故については、交通事故を得意とする弁護士に早期に相談されるべきです。
弁護士法人グレイスについて
弁護士法人グレイスには交通事故に精通した弁護士が複数在籍しており、日々、交通事故に関する研鑽を重ねております。弁護士法人グレイスなら、長年に渡り培った交通事故に関する豊富なノウハウを駆使し、相談者様にとって最適と思われる回答を差し上げることが可能です。
不幸にも交通事故に遭われてしまった方がいらっしゃいましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。