2021年7月8日
2021年9月15日
一括対応について
治療費の支払や休業損害の支払は、加害者の任意保険が対応するのはなぜ?
交通事故の被害に遭った場合、加害者が任意保険に加入している場合は、通常、治療費の支払や休業損害の支払は加害者の任意保険が対応してくれます。
ところで、自動車については、法律で自賠責保険への加入が義務付けられています。すると、車両同士の事故の場合は、加害者は自賠責保険に当然加入しているわけですが、自賠責保険が治療費の支払や休業損害の支払いを対応せず、任意保険が対応するのはどうしてでしょうか。
自賠責保険と任意保険の違い
まず、自賠責保険と任意保険の違いを説明したいと思います。
自賠責保険は、強制保険と呼ばれ、これに加入していない自動車は運行の用に供することが法律で禁止されています。違反者については罰則も定められています。つまり、自動車を購入した場合は、必ず自賠責保険に加入しなくてはなりません。
自賠責保険は、被害者が負った人身傷害について最低限度の補償をするための保険ですので、法律で定められた支払基準に従い、支払限度額の範囲内で保険金または損害賠償額の支払いを行います。限度額は、傷害に関する損害(受傷から症状固定までに被害者に生じた損害、治療費や休業損害等を指します)については120万円、後遺障害に関する損害については後遺障害等級に応じて75万円から4000万円、死亡に関する損害については3000万円となっています。
自賠責保険には限度額がありますので、例えば治療費が200万円かかったとしても、自賠責保険から支払われるのは120万円までです。
次に任意保険ですが、これは、自賠責保険の支払限度額を超える部分や支払い対象外の被害者の損害をカバーするために、任意で加入する保険です。したがって、任意保険は、自賠責保険の上乗せ保険ともよばれています。お車をお持ちの方は、ほとんどの方が任意保険に加入していると思います。任意保険に加入していない場合、万が一、事故の加害者になった時には、自賠責保険でカバーできない被害者の損害を加害者自身が負担しなくてはなりません。上の例では、治療費200万円のうち80万円を加害者自身が負担することになります。
任意保険が治療費や休業損害の支払いをする理由
このように自賠責保険と任意保険で支払いの範囲がそれぞれ異なるのに、なぜ、任意保険が治療費や休業損害の支払いをするのでしょうか。
もちろん、自賠責保険に、所定の請求用紙に必要事項を記入の上、必要書類を添付して、治療費、休業損害等の請求をすることもできます。この場合、自賠責保険でカバーできなかった損害分を任意保険に請求することになるのですが、被害者が自賠責保険、任意保険にそれぞれ請求しなくてはならず、被害者にとって非常に手間がかかります。そこで、現在の実務では、この手間を省くために、任意保険が被害者に対して、自賠責保険分も含めて、治療費、休業損害等を一括して支払い、その後、任意保険が自賠責保険分を自賠責保険に請求するという取り扱いを行っています。これを一括対応と呼んでいます。
そのため、交通事故の被害に遭うと、加害者側の任意保険が、まず治療費や休業損害等の支払いを行い、被害者の方が自賠責保険とやり取りをすることが無いようになっています。もっとも、過失割合に争いがある事故等は、任意保険が一括対応を行わないこともあります。
交通事故を取り巻く保険の仕組みは非常に複雑ですので、交通事故に遭われた方はぜひ一度、当事務所へご相談ください。