2021年7月8日
「車両の損傷が軽微なので 治療費の立替払いを今月で打ち切ります」
車両の損傷が軽微なのに長期の治療が必要であるはずがない、という保険会社の言い分
当事務所に御相談に来られる交通事故被害者の方で、一定割合、車両の損傷が軽微であることを理由に治療費支払いを打ち切られる方がいらっしゃいます。
保険会社の言い分は、車両の損傷が軽微なのに長期の治療が必要であるはずがない、ましてや後遺障害の対象となる症状は存在しない、というものです。 このような保険会社の言い分は、一面において正しく、一面において正しくないと言えます。
まず、当事務所で後遺障害認定申請をしたお客様の中で、車両の損傷が軽微だけれども後遺障害等級が認定された方が何名かいらっしゃいます。
しかし、割合で考えると、車両の損傷が軽微である場合と車両の損傷が大きい場合とでは、後者のほうが圧倒的に後遺障害等級が認定される確率が高いです。
そのため、事故日から何ヶ月目で治療費支払いの打ち切りを宣告されたかによりますが、治療費支払いの打ち切りを宣告されたからと言って、打ち切り後は治療の必要が無いというわけではありませんし、車両の損傷が軽微だから必要な治療期間が短くなるというわけではありません。
車両の損傷が軽微だけれども、治療費支払いの打ち切り後も治療の必要がある場合とは
では、車両の損傷が軽微だけれども、治療費支払いの打ち切り後も治療の必要がある場合というのはどのような場合でしょうか。
一つは、路面が非常に滑りやすい状態で後方車が前方車に追突するなど、加害車両の運動エネルギーがそのまま被害車両に伝わった結果、被害車両の車両の損傷が少なくて済んだ場合です。そもそも人体は車両と違って軟部組織で構成されていて容易に損傷されやすいため、このような場合には車両の損傷が乏しくても頸部痛や腰部痛といった症状は現れてきます。
もう一つは、被害車両が頑丈にできているため損傷が小さかった場合です。しかしこの場合には、被害車両が損傷しない分、加害車両が損傷しますので、保険会社の治療費打ち切りには容易に対抗できます。
最後に、車両だけでなく人体に対する衝撃もさほど大きくないが、もともと首や腰に加齢による変性所見があったために、痛みが誘発されたという場合があります。そもそも人は年齢を重ねるごとに(特に30歳を越えてくると)次第に椎間板の水分が失われていくため、何らかの外力が加わったときに痛みを誘発しやすくなります。このとき、事故後に生じた痛みは、事故による影響とも言えますし、年齢による影響とも言えます。このような事例であっても、症状によっては後遺障害等級の認定を得ることは不可能ではないですし、交渉によって相当な治療期間を保険会社に認めさせることも不可能ではありません。
しかし、裁判をしても厳しい判断になることもあります。 一つの判例に則れば、とある身体的特徴があったとしても、被害者がそれに応じて慎重な行動を取らなければならないとか、その身体的特徴が疾患に当たらないような場合には、損害賠償額には影響しないと判断されています。しかし、むち打ちによる神経症状は他覚所見に表れない分、心因的な症状の可能性や詐病の可能性も全く否定することはできないため、裁判所は賠償金額を低く見積もりがちです。このとき、治療期間を短く判断したり、割合的に減額したりして調整するのです。
ぜひ一度当事務所へご相談ください
長くなりましたが、保険会社ではこのような事例の集積の元に、「車両の損傷が軽微なので治療費の立替払いを今月で打ち切ります」と言っているのです。
被害者側弁護士としては、保険会社の言い分が正しいか慎重に検討したうえで、徹底的に争うべきなのか早期解決を目指したほうがいいのかを適宜判断する必要があると言えるでしょう。