2021年7月8日
医療過誤の判断方法
はじめに
ニュースレターをお読みいただいている皆様のご親族の方で、持病や怪我のために病院に通院されている方もいらっしゃると思います。もし、その通院・入院されているご親族が急死又は症状が劇的に悪化した場合、病院で行われた医療に誤りがあったのではないかと思われるかと思います。
今日は、そのような誤った医療によって身体に悪影響が生じた事を理由に賠償を求める、医療過誤訴訟における医療過誤の考え方を説明いたします。
医療が誤りか否かを判断する基準となる「医療水準」とは
我々人間は決して神様でも魔法使いでもありません。どんなに医療技術が発展しても、「人は死ぬ」という事実を避ける事はできません。そのため、結果的に「患者に病気が発症した」又は「患者が死んだ」という事実から、医療が誤っていたと判断することはできません。
では、その医療が誤りか否かをどう判断するのか。それは行われた医療が、通常の病院・医師ならば当然行わなければならない水準を満たすものかどうかという判断、法律用語で医療水準を満たしているか否かで判断します。
病院と一口に言っても、その設備や医師の専門領域はそれぞれです。例えば、東京の最先端医療技術を研究している超大規模病院と、医師が1人で診察している病院では、その医療技術にどうしても差が生じてしまう事は事実です。そのため、1人で診察している病院に、東京の専門的大規模病院並の医療技術を求めるわけにはいきません。もっとも、その一方で病院が独自の医療を行い、めちゃくちゃな治療を行うようになれば安心して病院に行けなくなります。
そこで、医療者として通常求められる水準を定め、その水準に基づく治療は日本全国どの病院でも受けられるようにすることで、皆様が少なくとも通常受けなければならない医療をどの病院でも受けられる環境を整備する事を法は求めているのです。
ここでいう医療水準というのは、例えば各診療科が定めるガイドラインや普通の医師であれば間違いなく行うであろう医療行為と考えてください。
医療水準という考え方が生まれた理由
なぜこのように医療だけは特別扱いするのでしょうか。私の尊敬する医師の言葉で「人間の体は宇宙だ」という言葉があります。人間の体は、本当に不思議なほどよくできています。例えば、人間の体に異なる血液型の血液を輸血するという事は、命に関わる極めて危険な事です。ですが、母親は血液型が異なる胎児を体内に約10ヶ月間も宿らせ、出産します。これは、胎児の血液が母親の体に入らないよう胎盤が血液を分けているからです。確かに、そうしなければここまで多種多様な人材は生まれなかったでしょうから、人類が繁栄するためには不可欠なシステムです。しかし、非常に不思議な現象だと思いませんか?こんな都合の良い身体のシステムを一体誰が作ったのでしょうか。これはまさに神様が作ったとしか言いようがなく、身体の神秘と言えます。
このような医療の特殊性を考えれば、法律が安易に医療内容に介入すべきではなく、また医療という人間が扱えるレベルを超えた分野を法が裁く以上、どこかで線を引かざるを得ないのです。このような考えが、医療水準という考え方が生まれた理由です。すなわち、この医療水準を下回るようなミスとは、例えば検査で陽性と出ているのに見落とした、手術で明らかに切除不要な部位を切断した場合等が典型例です。
もっとも、問題となる医療行為が医療水準を満たすか否かは、医学的知識のみでは不十分であり、法律的観点を組み合わせた観点から検討しなければならず、このような困難さが医療訴訟が専門訴訟と言われる由縁なのです。