2024年11月5日
2024年11月5日
1.はじめに
交通事故に遭った方の大きな心配事は、ご自身のお身体に与えられた影響について、相手方や相手方保険会社から適切な賠償を受けられるかどうかではないでしょうか?
特に、お身体に何かしらの痛みやしびれ、関節可動域制限などの後遺症が残存していると考えられる場合には、将来に対する補償もしてもらえるのか不安になるでしょう。このページでは、交通事故によってお身体に残存した障害とその扱いについて、解説をしていきます。
2.後遺症と後遺障害の違い
まず、そもそも「後遺症」と「後遺障害」との区別をしなければなりません。
「後遺症」とは、交通事故の影響により、お身体や精神面など、心身のいずれかに不完全な状態が残ることを意味します。これ以上の治療を施しても、症状の改善を見込めないという医師の判断によって、後遺症の有無が決定されます。
これに対して「後遺障害」とは、交通事故の影響によって残った後遺症のうち、損害保険料率算出機構によって自動車損害賠償保障法施行令(自賠法施行令)の別表第一及び別表第二に列挙された障害と認定されたものを指します。
後遺症が残っていたとしても、法令に列挙された「後遺障害」が認められなければ、後遺症に関する慰謝料や、将来の労働能力喪失分に関する補填は得られないのです。このため、交通事故に遭った方に後遺症が残存している場合には、これが法令に則った後遺障害といえるのかが、重要な問題点となります。
3.後遺障害の等級について
ここで、後遺障害の等級についても見ておきましょう。後遺障害の等級は、第1級から第14級まであり、第1級が一番重い後遺障害となります。このうち、介護を要する後遺障害が自賠法施行令別表第一に、介護を要しない後遺障害が自賠法施行令別表第二に記載されています。
等級 | 介護を要する後遺障害 | 保険金額 |
---|---|---|
第一級 | 一 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 二 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
四千万円 |
第二級 | 一 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 二 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
三千万円 |
等級 | 後遺障害 | 保険金額 |
---|---|---|
第一級 | 一 両眼が失明したもの 二 咀嚼そしやく及び言語の機能を廃したもの 三 両上肢をひじ関節以上で失つたもの 四 両上肢の用を全廃したもの 五 両下肢をひざ関節以上で失つたもの 六 両下肢の用を全廃したもの |
三千万円 |
第二級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 三 両上肢を手関節以上で失つたもの 四 両下肢を足関節以上で失つたもの |
二千五百九十万円 |
第三級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 二 咀嚼そしやく又は言語の機能を廃したもの 三 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 四 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 五 両手の手指の全部を失つたもの |
二千二百十九万円 |
第四級 | 一 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 二 咀嚼そしやく及び言語の機能に著しい障害を残すもの 三 両耳の聴力を全く失つたもの 四 一上肢をひじ関節以上で失つたもの 五 一下肢をひざ関節以上で失つたもの 六 両手の手指の全部の用を廃したもの 七 両足をリスフラン関節以上で失つたもの |
千八百八十九万円 |
第五級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 三 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 四 一上肢を手関節以上で失つたもの 五 一下肢を足関節以上で失つたもの 六 一上肢の用を全廃したもの 七 一下肢の用を全廃したもの 八 両足の足指の全部を失つたもの |
千五百七十四万円 |
第六級 | 一 両眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 咀嚼そしやく又は言語の機能に著しい障害を残すもの 三 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 四 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 五 脊せき柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 六 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 七 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 八 一手の五の手指又はおや指を含み四の手指を失つたもの |
千二百九十六万円 |
第七級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 三 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 四 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 五 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 六 一手のおや指を含み三の手指を失つたもの又はおや指以外の四の手指を失つたもの 七 一手の五の手指又はおや指を含み四の手指の用を廃したもの 八 一足をリスフラン関節以上で失つたもの 九 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 十 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 十一 両足の足指の全部の用を廃したもの 十二 外貌に著しい醜状を残すもの 十三 両側の睾こう丸を失つたもの |
千五十一万円 |
第八級 | 一 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 脊せき柱に運動障害を残すもの 三 一手のおや指を含み二の手指を失つたもの又はおや指以外の三の手指を失つたもの 四 一手のおや指を含み三の手指の用を廃したもの又はおや指以外の四の手指の用を廃したもの 五 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの 六 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 七 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 八 一上肢に偽関節を残すもの 九 一下肢に偽関節を残すもの 十 一足の足指の全部を失つたもの |
八百十九万円 |
第九級 | 一 両眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 三 両眼に半盲症、視野狭窄さく又は視野変状を残すもの 四 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 五 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 六 咀嚼そしやく及び言語の機能に障害を残すもの 七 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 八 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 九 一耳の聴力を全く失つたもの 十 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 十一 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 十二 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの 十三 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの 十四 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの 十五 一足の足指の全部の用を廃したもの 十六 外貌に相当程度の醜状を残すもの 十七 生殖器に著しい障害を残すもの |
六百十六万円 |
第十級 | 一 一眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 正面を見た場合に複視の症状を残すもの 三 咀嚼そしやく又は言語の機能に障害を残すもの 四 十四歯以上に対し歯科補綴てつを加えたもの 五 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 六 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 七 一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの 八 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの 九 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの 十 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 十一 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
四百六十一万円 |
第十一級 | 一 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 二 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 三 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 四 十歯以上に対し歯科補綴てつを加えたもの 五 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 六 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 七 脊せき柱に変形を残すもの 八 一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの 九 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの 十 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
三百三十一万円 |
第十二級 | 一 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 二 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 三 七歯以上に対し歯科補綴てつを加えたもの 四 一耳の耳殻の大部分を欠損したもの 五 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 六 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 七 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 八 長管骨に変形を残すもの 九 一手のこ指を失つたもの 十 一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 十一 一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの 十二 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの 十三 局部に頑固な神経症状を残すもの 十四 外貌に醜状を残すもの |
二百二十四万円 |
第十三級 | 一 一眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの 三 一眼に半盲症、視野狭窄さく又は視野変状を残すもの 四 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 五 五歯以上に対し歯科補綴てつを加えたもの 六 一手のこ指の用を廃したもの 七 一手のおや指の指骨の一部を失つたもの 八 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの 九 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの 十 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの 十一 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
百三十九万円 |
第十四級 | 一 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 二 三歯以上に対し歯科補綴てつを加えたもの 三 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 四 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 五 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 六 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの 七 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの 八 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 九 局部に神経症状を残すもの |
七十五万円 |
これらの後遺障害が認定されると、後遺障害の等級に応じて、慰謝料額及び後遺障害による労働能力喪失分の補償(逸失利益)が決まることとなります。最も軽い第14級該当の後遺障害であっても、認められれば、慰謝料額が110万円(裁判基準)となり、逸失利益も100万円以上となることが多いですから、いかに後遺障害等級認定が重要か、お分かりいただけるものと思います。
但し、上記の表に記載された慰謝料額は、あくまでも裁判基準によるものす。示談交渉に弁護士が介入していない場合は、大幅に減額された自賠責基準に則った低額な支払提示がなされるだけですから、後遺障害認定後の交渉には、交通事故交渉に慣れた弁護士へのご依頼をなさることをお勧めします。
4.後遺障害等級認定の申請方法
後遺障害等級認定は、上記のとおり、損害保険料率算出機構によって中立的に判断されます。この認定の申請は、相手方加入の自賠責保険会社を通じて行うこととなり、その方法が2種類あります。
4-1. 加害者請求・事前認定
一つ目は、加害者請求・事前認定などと呼ばれる申請方法です。これは、相手方の任意保険会社を通して、自賠責保険会社への後遺障害等級認定を申請する方法です。
この場合、被害者側としては、専用の後遺障害診断書などの数種類の書類を用意して相手方保険会社に送付するだけですから、手続は簡単となります。他方で、自賠責保険会社に対して送付する申請書類・添付資料は、相手方保険会社が作成するため、どのような資料が送付されているのか分からず、こちら側に不利な資料が添付されているかどうかも分からない点に難点があります。
4-2. 被害者請求・16条請求
二つ目は、被害者請求・16条請求と呼ばれる申請方法です。これは、相手方の任意保険会社を通さずに、被害者が自賠責保険会社に直接後遺障害等級認定を申請する方法となります。
この場合には、多種多様な資料を収集したり、取り寄せたりしなければならないため、申請手続が複雑になります。他方で、申請の際に自由に添付資料を付けることができますので、家事を行うことが困難になったことを示す陳述書、通院時の医師の診断内容を具体的に示すカルテなど、有利な資料を取捨選択することができます。このため、後遺障害の認定を受ける可能性が高くなるのは、被害者請求による場合といえるでしょう。
被害者請求は、手続が複雑ではあるものの、後遺障害の認定の可能性は高まることとなりますから、ぜひ複雑な手続を専門家である弁護士に任せてしまいましょう。特に交通事故に特化した法律事務所の弁護士であれば、被害者請求時に添付するべき資料の収集・作成にも積極的に取り組むことができます。まずは当事務所へのご相談をご検討ください。
5.後遺障害等級認定の手続の流れ
さて、最後に、後遺障害等級認定の手続の流れについてご説明します。
後遺障害等級認定の申請をした場合、損害保険料率算出機構によって中立的に後遺障害の有無が判断されることとなります。後遺症が外貌醜状(身体に傷跡・瘢痕などが残った場合)である場合など、後遺障害等級認定の判断前に、自賠責保険会社との担当者との面談を要する場合もあります。
この損害保険料率算出機構による後遺障害等級認定の判断には、一般的に、1~3か月程度の期間を要します。また、後遺症が多数の部位にわたる場合には、更に時間がかかることもあります。
このような流れで後遺障害等級認定がなされた場合には、相手方保険会社との示談交渉に進むこととなります。
以上のとおり、後遺障害等級認定についてご説明しました。交通事故後の後遺症についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひお早めに当事務所までご相談ください。